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魔物の秩序と、それぞれの役割
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棗は黒鉄に言われた事がよく飲み込めず、いや認めるのが嫌だったという方が正しい。ベッドに身を起こした格好で、側に寄せた椅子に座って話す黒鉄を呆然と見ていた。
「それで、白楊に薬を飲ませたいが…何が良いだろうな、」
「あの、妖力で怪我を治せるでしょう。そしたら薬よりも早くて確実なんじゃないかな。」
もしかしたら、声すらも戻せるのではと期待して言う。
「それなんだが、簡単に言えば紅丸の使い魔が喉に張り付いてる状態でな、妖力で治したところでまた焼かれてしまい、再び苦しむ事になる。それは、あまりにもむごいだろう。」
「そんな、…じゃあ声を戻す事は出来ないの。」
「まあな、紅丸が使い魔を退ければいいが…白楊は一度決めた事を違えるのは嫌がるんだ。」
棗には、如何して白楊ばかりがこんな目に遭うのか理解出来ない。しかも、胸の中にはまだ消えない思いを抱えたままで、白楊の苦痛を思うと気持ちは沈む。
「そう…。僕が協力出来るのは、薬の事くらいなんだね。」
棗は溜め息を吐いて、喉の火傷に効く薬の名を紙に書いた。
「紅丸には、魔物を束ねる役割があるって分かってるし…魔物の秩序に俺が首を突っ込む気はない。」
「はぁ…。随分と物分りが良いね。」
翌日、約束通りに自分達で作った弁当を提げて、四人はモモンガを探して樹の茂る湖の近く迄来ていた。黒鉄に肩車をしてもらった青藍が、木に空いた穴を覗き込んでいる。それを遠巻きに見て、岩に腰掛けた棗と常は話し込んでいた。
「いんや、実はさ。昨日は少し文句も言った。でも、それは白楊の友人としてな。友人として腹立つ気持ちは抑えらんなかった。」
常がけろりと言う。棗は数度瞬きして、苦笑した。
「ははっ、トキワらしいや。ごめんね、トキワから紅丸さんにお願いして何とか出来ないかなんて、僕は間違ってたね。」
「まあ、気持ちは分かるぜ。でも、紅丸だって白楊の事は心配してんだ、なんだかんだ言っても古い付き合いの友達なんだろうな。」
紅丸は常の文句を言い返しもせずに、ちゃんと受け止めてくれた。それから、ソファーに座る常の膝に頭を乗せて、疲れた様に目を閉じてしまった。せめてもの謝罪と労りを込めて紅丸の髪を撫でながら、常なりに感じた事だ。
「決めた…僕は僕に出来る事をするべきだ。来週から復学するよ。留年なんて出来ないからね!」
「そっか、ナツメが落ち着いたら俺も果ての屋敷に帰んないとな。一応これでも御方様だし、緑太に留守を任せっぱなしじゃ悪いしさ。」
常と棗を呼ぶ声、青藍が肩車のままで手を振った。それに振り返して、二人は腰を上げると黒鉄と青藍の元へゆっくりと進む。どうやら目的のモモンガが居ると、身振りで伝えて来る。
「よし、モモンガを見付けたら紅丸に自慢するぞ。」
「トキワ、静かにしないと逃げちゃうよ。」
屋敷に残った紅丸は、倒れた白楊の代わりに白運グループの仕事をこなしている。モモンガに別段興味もないだろうが、常と青藍が楽しんだ様子を語って聞かせれば、良い息抜きになるだろう。
黒鉄が青藍を降ろして、今度は棗を抱き上げる。穴の中を見てわぁと顔を綻ばせると、今度は常を抱えた。おお!と声を殺して喜ぶと直ぐに降ろしてもらい、木の実や果物を持った青藍に場所を譲る。寒さで丸まり、動きの鈍いモモンガの巣穴にそっと転がした。
「黒鉄、有難うな。モモンガに貢ぎ物もあげたし、そろそろ帰ろうか。」
「うん。まあるくてかわいかったね。」
常と手を繋いで、青藍がにこにこ笑う。黒鉄は空の弁当箱を引き受けて、棗の腕を取った。
「黒鉄さん、来週から復学する事にしたんだ。」
「そうか。頑張れよ。」
「うん、」
冬の湖を渡る風は澄んでいる。その風を受ける棗の顔は、不思議と先程まで抱えていた悩みが吹っ切れている様だった。
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