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教えて、黒鉄さん
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竜胆は、棗が復学してからも屋敷を訪れる様になった。卒業後は秘書として働く約束もついているし、身の置き所の無い自宅よりはよっぽど気楽に過ごせる。
赤月の秘書としての仕事を学ぶ事も出来、人目を気にして自由に使い魔を出せずにストレスが溜まる一方だったのを解消する事も出来て、まさに一石二鳥であった。
「狐って可愛いね。」
棗が耳の周りを撫でても竜胆の使い魔の狐は逃げもせずに、気持ち良さげに目を閉じてその膝の上で寝ている。それを見ながら、竜胆は赤月に習って淹れたハーブティーを飲んでいた。
「ところでさ、大学卒業後は何処に住むんだ。俺はナツメの秘書なんだから、赤月さんの様に一緒に住んで身の回りの世話をするつもりだし、そろそろ今後の事を話しとこうと思ってさ。」
「そうだよね。どうしようか…一人暮らしの予定でいたから、狭いアパートしか物件を探してなかったんだ。」
それを聞いた竜胆が、ティーカップを置いて溜め息を吐く。
「別に、狭くても良いけどさ。でも、俺はもう殆ど成長しないと思うから、人の近くで暮らすなら一つどころに留まるのは難しい。」
竜胆から、秘書になった理由を聞いていた棗は、勿論その事を知っていたので納得して頷く。
「ああ、そうだよね。黒鉄さんは色々と詳しいから、相談してみるよ。」
「なあ、この屋敷にそのまま居たら駄目なのか、それが一番手っ取り早いだろ。」
「え、」
棗が言葉を詰まらせる。白楊への思いがある限り、それは微妙な問題だ。それに、いつまでも厄介になるのは気が引ける。
「うーん。そろそろ黒鉄さんが、饅頭買って帰って来ると思うから。リンドウの体の事も考慮して、良い案がないか話そう。」
「うん。」
頷き、ハーブティーのカップを手に取り一口飲む。焦げ茶の半ズボンに白い半袖シャツ、深緑のネクタイを律儀に締めている竜胆は、きちんと礼儀正しくしていれば魔物の整った顔立ちもあり、何処かの御令息に見える。
棗は自分にも淹れて貰ったハーブティーを飲みながら、一緒に暮らすなら自分の方がよっぽど秘書に見えるだろうなと考えて、二人の生活を思うと可笑しくなった。
「何、なんで笑ってんの。」
「ふふ、リンドウって誰かの世話なんて出来るの?」
「何だよそれ、馬鹿にしてんのか、」
むすっと、頬を膨らませるのも可愛らしい。弟がいればこんな感じかと、側にいれば常々思っている。
「ううん。僕さ、ずっとトキワと二人暮らしで、あれこれ世話を焼いて世話を焼かれて、貧乏でもそれなりに楽しく過ごしてたんだ。だから、秘書だからって赤月さんの様に完璧にしなくても良いよ。リンドウとは、家族みたいに過ごすのが良いなあ。」
「ふうん、家族ね。」
思案顔で、竜胆が頬杖をつく。そこへノック音と共に、饅頭を抱えた黒鉄が入って来た。昨日ふらりと現れて、今日はわざわざ遠くの出店まで、美味い饅頭を買いに行くと言っていたのだ。
竜胆が用意していたカップに新たにハーブティーを淹れて、饅頭を三人で囲む。棗が切り出して、今後住処を如何するのが一番良いかと相談した。
「それは、白楊と話した方が良いんじゃないか。竜胆もお前もきちんと仕事を覚えるなら、この屋敷に居た方が良いだろう。」
「うん…、」
「まあ、気が進まんなら近くの貸部屋に住んで一年程で住処を変えるか、もしくは、この屋敷の様に広い土地を買って屋敷を建てるか。しかし、それも大変だぞ。」
現実問題、確かにどちらも金もかかるし骨が折れる作業だ。棗一人であれば単純な事も、魔物の竜胆を伴うと容易ではない。
「そうだね。白楊さんと赤月さんに相談してみる。」
「俺はナツメが決めた事に従う。」
竜胆がそう言って、そろそろ帰ると鞄を持った。その足元へ、棗の膝から降りた狐が添う。膨らんだ尻尾が剥き出しの脛を撫でるので、くすぐったいと抱き上げるとすうっと消える。また明日と帰って行った。
「あ、黒鉄さん。別の相談事なんだけど、以前白楊さんにネックレスを貰ったんだ、もう直ぐ大学も卒業だし…何かをお返ししたいと思うんだけど、何が良いかなあ。」
「は?ネックレス…、」
何故か絶句され、棗は首を傾げた。
「ちょっと、少し時間をくれ。…いや、先ずはそのネックレスとやらを見せてくれないか、」
頷き、棗が机の引き出しから綺麗な箱に入れて丁寧にしまっていたのを取り出した。その中身は、まさに紅丸が預かっていたあのネックレスだった。
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