アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
6.蛇足
-
俺の部屋が血で染まっていた。
皆既日食のお陰で力がみなぎり、ようやく白夜(ハクヤ)を手に入れられると彼の元に向かったら、いるべき場所に彼の姿はなく俺のベッドで血に塗れて息絶えていた。
彼が自らの手で命を絶ったのだということは見てすぐに分かった。
どうしてだ。
俺が初めて執着した人間(アイツ)。初めて愛してると言おうと思っていた人間(アイツ)が、どうして二度と動かぬ死体(モノ)になっているんだ?
彼の血で見えない部分はあったが、ベッドに描かれた符陣は恐らく黒乃の護符を強める『護符(もの)』。
毎晩白夜を抱きながらずっと囁いてきた。黒乃を忘れろと。俺を見ろと。
今日こそこいつを手に入れようと思っていたのに、なぜこんなことに?
俺はこいつの気持ちを欲しがらずに体だけで満足していれば良かったのか? そうしていれば彼は今も俺の隣にいてくれたのか?
こんな未来など考えてもいなかった。どうしてこんな……?
白夜の通夜。黒乃の隣に座って控え目な笑顔の白夜の写真をぼんやりと眺める。彼のあんな笑顔を見たのは一体いつが最後だったのだろう。何かがおかしいと思ったときには彼はどこか寂しげな瞳をして笑うようになっていた。
「あなたは人間じゃなかったんですね。おかしいと思ったんです。婚約者に蘭家の詳細を知らないかたを両親が選ぶなんて。あなたは私よりお兄さんに興味をもっていましたし」
隣に座る黒乃が前を見据えたまま俺にだけ聞こえる声で話しかけてきた。
強化された護符の存在に黒乃は気づき、彼女に寄ることもできない俺が人外なのだとバレてしまったのだろう。となれば、婚約者となったのも俺の能力の影響ということも黒乃は知ったはずだ。
そんなことは黒乃にバレても別にいい。親しかった兄を亡くして悲しむ黒乃に触れることもしない『不親切な婚約者』と周囲が俺を見ているのも構わない。今はただ、白夜の魂の傍にいたかった。
「白夜が欲しかったから、皆既日食の後にお前から奪い取るつもりだった」
「お兄さんの方がいろいろと行動が早かったんですね」
黒乃は腫れ上がった瞼を伏せて、苦笑した。
「私にこんな強力な護符を渡して。能力なしと両親に言われながらも反論もせず……本当にシスコンなんだから」
「結局アイツはお前を選んだんだな」
俺がどんなに熱い視線を送っても、毎晩黒乃よりも俺を選ばそうとしても、なびくことなどなかったお前。妹が本当に大切だったのだろう。
「私? ……いいえ。お兄さんはあなたも選んでいました」
黒乃が俺に手を差し出した。そして持っていた『何か』を俺の手のひらに落とした。俺の手のひらで転がっているのは白夜を感じることができる紅い玉だった。
「これは?」
「護符の一種です。術者の血を形にして中に力を込めています。お兄さんが身に付けていたお守りの中にしまってあったんですが、この護符にはあなたの名前が刻んであって……『幸福』の術が入ってます」
「幸福?」
バカじゃないのか。
お前なしでどうやって幸せになれっていうんだ。
「だからお兄さんもきっとあなたのことを。……本人ではないので私の予想ですけれど」
「本人にはもう聞けないからな」
俺の嘆息しての言葉に、黒乃は視線をさ迷わせた後、
「あなたにお兄さんから直接聞くつもりがあるのなら、お手伝いします」
黒乃はその方法を教えてくれた。魂を追いかけて『転生』するという手段があること。
白夜の魂を追うなら今晩中に儀式が必要なこと。
俺の手の中にある白夜の護符が道案内すること。
魂がどの時間枠、空間枠に行くのかがわからないので俺の持つ力を全て必要とすること。
それから、
「お兄さんが幸せになるところを確認したいので、私も追わせていただきます」
それが黒乃の条件だった。
俺に異論はない。白夜を手にいれる為ならなんでもする。この力も無くなって構わない。白夜だって自分の力を使いきることに戸惑いもしなかったのだ。
俺は全てを受け入れ、黒乃に俺の未来を託した。
目の前にいるのは姿は違うけれど、間違いなく白夜だ。俺が唯一愛した人間。
「シオン」
声も白夜とは異なるけれど、そこに含まれる熱さと響きは白夜のものだ。
今はケイという人間だが、俺の愛する男。
肌に散る赤い斑点は俺が愛した印。抱いた後なので気怠さを纏わせているが、それがまた俺の欲情をそそってくる。
「シオン。愛してる」
俺の欲求に全て応えてくれる愛しい男。
彼にアイシテルといわれるたびに、俺の心は震え血はたぎる。どうやらそれは向こうも同じようだが、お互いの匂いと味をすり付けた結果だ。俺たち以上に相性の良い番(ツガイ)はいないだろう。
だから今日もアイツに伝える。
朱音の分まで言ってやる。
愛しているよ、と。
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
6 / 7