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迎え 1 (士郎side)
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ヘリポートに着くと、少年が一人、ヘリに寄りかかるようにして気怠げに立っていた。
「ったく、何だってオレが来なきゃなんねーんだよっ。ざけんなっ」
足元の土を蹴りつけながら、ひたすらに文句を垂れている。
崩れた口調にそぐわない、繊細な造りの美しい顔。
緩くウエーブがかった長めの髪は栗色で、秀でた額の半分を覆い隠すようにサイドに流されている。
こちらに気づいた少年が振り返るなり、形のよい口角がキュッと意味深に持ち上がった。
「……へぇ、案外いい男じゃん?」
あっという間に距離を詰めてきたかと思えば、やたら近くで、グッと身を乗り出してくる。
途端にふわりと香水とは違う甘い香りが鼻の奥をくすぐった。
「……っ」
まるでまとう空気そのものが妖しく色づいてでもいるかのような。
仕草のすべてが誘いかけるような甘い毒を持つ。
「アキラからあんたを連れて来いって言われてる。組織の場所はトップシークレットだからな、一応は目隠しして運ばせてもらうぜ?」
組織の本部に乗り込むのだ、その程度は覚悟していると迷わず頷いた。
「思い切りがいいな。ますます、いーじゃん?」
首筋に鼻先を突っ込まれて匂いをかがれ、さすがにやり過ぎだと押し返した。
「んだよ、つれねーな。行きがけの駄賃くらい弾めってんだ」
ブツクサと罵りながらも取り出した黒い布で手早くこちらの視界を奪うと、荷物のように後部座席に放り込まれた。
「飛ばすぜ? 降り落とされんなよ」
「覚悟しておく」
ヘリのドアが閉まる音がした。
轟音と土煙の匂いがして、ふわりと身体に感じる重量が軽くなる。
ギュッと両の手の指を組み合わせ、固く握り締めた。
どうか無事でいてくれ。
祈るように首を垂れれば、
『なんかすっげぇ顔色悪くね?』
被せられたヘッドフォンから先ほどの少年の声が聞こえてきた。
「……あんな馬鹿でも、一応は恋人だからな。危ないと言われれば動揺もする」
『あー……、それ、確実に担がれてるぜ?』
バッと勢いよく顔を上げた。
『龍之介は無事なのか……!?』
『っと、目隠しは取るなよ? つーか、ちょい本気モードのトーナメント戦を戦ってるくらいでさ。少なくともオレが出てきた時は傷一つなかったな』
思えば誰も龍之介が怪我をしたとは言わなかった。
龍之介が会いたがっていると、克己が涙ながらに訴えただけだ。
誰にかはわからないが、騙された……!?
情けなくはあったが、背もたれに身体を預け天を仰ぎ、大きく吐息した。
今頃になって震えがきた。
『……っ』
『んな真っ青になるくらい好きなくせして、何で離れたりしたんだよ?』
まったく理解不能だとばかりに、少年がイライラと吐き捨てる。
『惚れてんなら全部捨てて、さっさとこっち来てくんねーかなぁ? あんたがちゃんとあの傍迷惑なヤローを捕まえといてくんねーと、アキラが揺れんだよ』
『……っ』
『せっかくドルフの阿呆がいなくなって、チャンス到来だってのに、アキラの目にはあいつしか映ってねぇしよ……」
『君はアキラを……?』
『たりめぇだろ! アキラはオレのすべてだ……っ』
あんなに綺麗で真っ直ぐで、胸が痛くなるほどに鮮やかな男が他にいるかと、吐き捨てるように燃え上がる胸の内を訴える。
『弟の名前ばっか口にしてたかと思えば、あんなクズヤローにコロッと転びやがってよ。アホかってんだ!』
あまりの言い草に苦笑したが、やたらめったら色香を振りまいては虜にさせ、挙句の果てに戦場での熱を冷ますためだと浮気ばかりを繰り返すなど、我が恋人ながら相当なクズに違いなかった。
『否定はできないが、それでも組織のトップとして受け入れられてはいるんだろう?』
望んで就いたというよりは、請われてリーダーを引き受けたように聞こえたのだが。
『……っ、そんなん、あの垂れ流しの色気にやられただけだろーが!』
あんなものは暴力と同じだと、鼻息荒く詰る。
『あの声に身体だろ、思わせぶりな態度一つで誰もがバカみてぇに転びやがる。出会い頭に乗っかられりゃ、男なんざみんな勃つんだよ!』
ぶっ飛んだ物言いだが、龍之介に関する限り的を得ている気がして、苦笑した。
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