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祈り (士郎side)
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前を歩く男の、自分の目から見てもひどく見目麗しい背中をじっと見つめた。
報われない恋に傷つき疲れ荒んでも。
それさえ艶に変えて煌めく魂に、打たれた。
見惚れるほどに潔く、己を犠牲にしながら突き進む。
たとえ行き着く先が業火に焼けただれた地獄でも。
そこに愛する弟がいると信じて、何のためらいもなく駆けていく。
胸を刺し貫く痛みに、何か自分にできることはないか……と出かけた言葉を、すんでのところで飲み込んだ。
アキラがその身を犠牲にしてなお届かない情報を得る術などありはしない。
かといって同じ道を共に歩んでやれるわけでもなく。
己がここまで歩いてきた道に後悔はなくとも自分は汚れていると、アキラは確実に考えているはずだ。
龍之介に選ばれ、アキラからしたら光ある道を行く自分に、いったい何が言えるだろう?
己が楽になるために放った言葉で相手の心に取り返しのつかない傷を作ってしまうこともある。
ならば黙っているのがせめてもの気遣いだとばかりに、口をつぐんだ。
幸せをあきらめ、すべてを燃やし尽くして大切なものを守ろうとするこの男の前途に、せめてやさしい光が降り注ぐように。
ただひたすらに祈ることしかできない己の無力さを苦く噛み殺したのだった。
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