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波風 (龍之介side)
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リトを肩車する士郎の姿は、いずれ彼が手に入れるはずだった当たり前の幸せを体現しているかのようで、心にいらぬ波風が立つ。
士郎と共に生きると決めてからも常につきまとう罪悪感。
光ある道を行く男の未来を強引に奪った。
強くやさしい、いい夫や父親になることが容易に想像できる男だ。
見て見ぬ振りをしてきた事実を予期せず突きつけられ、自分でも驚くほどに動揺した。
普段はたやすくオンオフできる戦闘モードのスイッチが、いっこうに切り替わらない。
……ヤベェな。
相手はよりによってキリヒトの残党だ。
トーナメントを順当に勝ち上がってきただけあって、実力のほどは折り紙つき。
普段ならいい勝負は繰り広げても、負けるような相手ではなかったが、ナイフでの格闘は一瞬の隙が命取りになる。
そもそもが組織のバトルはすべて本気がモットーだ。
万が一のアクシデントも織り込み済みのデスバトル。
唯一、怪我や調子の悪さを理由に事前にギブアップ宣言することだけは許されていたが、このトーナメントのメインである自分が降りるとあっては盛り下がるどころの話ではなく。
実質的に退路は絶たれていると言ってよかった。
そもそもが不利になったくらいでバトルを降りるくらいなら、端からリングになど上がりはしない。
ギリギリの場所でこそ燃える。
そんな星のもとに生まれてきた。
とは言え、これは少々厄介だ。
命という名のロウソクの炎が勢いよく燃え上がり、揺らぎ、ジリジリと焦げつくのを肌で感じた。
今まさに瀬戸際に立っている。
あの世とこの世の狭間に。
上手くスイッチが入るのが先か、あっけなくやられるのが先か。
どちらに転ぶかは運次第。
愛する男の目の前で散るのもまた一興かと、自虐的に笑う。
「……まァ、そう簡単にヤられてやるつもりはねェけどなァ」
つぶやきながら、リングのロープに手をかけた。
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