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今自分にできること (ルイside)
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「……ルイ、マコトからホットラインだ!」
組織から連れてきた仲間にどうする、つなぐかと目で問われ、スピーカーにしてくれと頷いた。
『……ルイ!?』
「悪いがこっちも緊急オペの真っ最中だ。手短に頼む」
『リューが……っ、リューが刺された……!!』
息が止まり、手元が狂いかけ、慌てて一歩引いた。
「……状態は?」
深く一度呼吸してから問う。
『ナイフには猛毒が塗られてて、それもかなりの深手だって……っ、オレもハルトもミッションで外出てて……、オペ室に運ばれたってことしかわかんねぇ……っ! くそ……っ』
なぜ自分がいない時に限ってと天を仰いだ。
その上、士郎が桜華を出てすぐ、こちらの事態も急変していた。
煌牙が大きな発作を起こしたのだ。
単に弱り切っていた心臓がギリギリで悲鳴を上げたのか、雪夜を託すはずの士郎の不在が精神的な負荷をかけたのかはわからない。
いずれにせよ最悪の条件の中、いつ終わるとも知れない緊急手術が始まった。
『なぁ、そっちは誰かに任せて、今すぐ基地に飛んでくれよ! おまえがいればどんな深手だって治せるだろ……!?』
本当ならマコトの言うように、今すぐ飛んで帰りたかった。
だが、不規則な心音を響かせる、弱り切った煌牙を救えるのは、目の前の自分だけだ。
自分がこの手を下ろせば、煌牙は確実に死ぬ。
心は揺れたが、答えは聞かれるまでもなく決まっていた。
「オレはここに残る」
最善を尽くすと約束した。
クソ生意気なガキだが、生きたいと縋りついてくる命を無下にはできない。
「アレクをはじめとする組織の医療班は優秀だ。オレに救える命なら、あいつらにも救えるだろう」
『けど、おまえほどの天才じゃない……! もしリューに何かあったら、死ぬほど後悔するのはおまえだろ!?』
「そんなのは、わかってる……っ」
思わず息も荒く吐き捨てた。
「だが、オレは医者だ。託せる人間がいない以上、誰に何があろうと、今この場を動くことはできない……!」
震える指先を握り込み、つかの間、まぶたを閉じた。
走馬灯のように脳裏を龍之介と過ごした日々が駆け抜ける。
この世の終わりのような掃き溜めに現れた、天使としか言いようのない美少女に惹かれ、らしくもなく恋に落ちた。
いたずらに散っていく命を見るに見かねて、見よう見まねで覚えたオペの技術を、ゴミ捨て場から拾ってきた玩具のような手術道具で施せば、目を輝かせてすげぇと褒められ、頑なな態度の裏で密かに有頂天になった。
とろけるほどに甘かった初めての夜の記憶は、今なお夜空に輝く一番星のように眩しくも尊い思い出として胸に刻まれている。
詐欺だろうと思うような急成長を遂げたら遂げたで、滴り落ちるような男の色香を振りまき、自分の中の新たな扉を強引にこじ開けてくれた。
ハルトに気持ちが移ってからも愛しさは薄らぐどころか果てしなく深まり、もはや並みの家族以上に太くて堅い絆で結ばれた、魂の半身のような存在だ。
あの男のためなら、いつだって笑って死ねるだろう。
それはハルトもマコトも同じはずで。
誰より暗く深い死の極をひた走りながら、不死鳥のように繰り返し返り咲いてきた男だ。
「……リューならきっと、生き伸びてくれる」
なんつー顔してンだ、と人を小馬鹿にしたような笑みを浮かべ、こちらが呆れるほど元気な姿を見せてくれるに違いない。
「だいたい、この手術を放り出して駆けつけたりしてみろ、逆にてめぇのプロ意識はその程度かと呆れられるだけだ」
だからこの地で戦い、最善を尽くすのだ。
「おまえも与えられた役割を果たせ」
『……っ』
「切るぞ」
一方的に通話を打ち切り、深呼吸を繰り返す。
「時間を取らせてすまない。……再開しよう」
組織から連れてきたメンバー数人は未だ話の内容にひどく動揺した様子を見せていたが、執刀医である自分が手を動かし始めると、慌ててついてきた。
さすがは幾度も修羅場をくぐり抜けてきたチームのメンバーだ。
頼りになる。
とにかく今は目の前の命を救うことだけに全力を尽くそう。
すべてはその後だと邪念を排除し、散漫になりつつあった集中のギアを上げた。
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