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もどかしいほど愛しくて (士郎side)
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クソッと毒づいた龍之介が、つかんだままの手首に爪を立ててきた。
それさえ愛しく思えて、クスッと笑ってしまった。
「うおっ、シロちゃんの笑顔とか、激レア!」
「……だから、見ンなって。……減るだろ?」
獣のように唸り声を上げた龍之介が、枕元のクッションをユーリに投げつけた。
明らかに勢いのないそれを笑いながらそれを受け止めたユーリが、降参だとばかりに肩をすくめた。
「わかったって。出てってやるけど、くれぐれも安静にな?」
途端に龍之介が、
「……保証の限りじゃねェなァ」
不敵に笑う。
「……っ」
「シロちゃん、常識人のおまえを見込んで言うんだからな? そいつ、マジで死にかけの重病人だから。頼むからヤんなよ?」
マジで縫った腹が裂けるからな? とさらに言い置いて、しぶしぶ部屋から出て行った。
ようやく静まり返った部屋に、龍之介の抑え切れない荒い吐息が響く。
「……はァ。とりあえず、座れ……」
「……ああ」
抱きつきたいのに傷に触れるのが怖くて、距離を詰めることすらままならない。
甘く切なく、狂おしいほどのもどかしさを覚え、相手は病人だと必死に己に言い聞かせた。
「……ったく、ようやく会えたってのに、このザマだ」
とりあえず一度だけでも抱いておいてよかったと、龍之介が傷に触らないよう脇腹を下にして横たわったまま、天を仰ぐ。
「ったく、つくづくリーダーなんて引き受けるンじゃなかったぜ。つーか、まずは拘束したヤツらと話つけねーと。……オチオチ基地内を歩けもしねェ」
「……すまない」
「あァ?」
「オレが勝手に来たりするから、おまえを危ない目に合わせた」
「……バカが」
世にも甘い毒づきに、カァッと首すじが熱くなる。
「いつだって好きな時に会いにくりゃイイ。……何のためにハルの目ェ盗んで、オマエのデータをホストコンピュータに登録したと思ってる」
「……っ」
「今回に関しちゃ全面的に、こっちサイドの不手際だ」
素直に非を認める龍之介に、目を見開いた。
「……ンだよ、オレだって悪いと思や、素直に謝るくらいはするぜ?」
長めの黒髪をかき上げて、あごを仰け反らせる様は、反省とはまるで真反対のふてぶてしさだったが。
隙を突かれ、あまつさえ深手を負わされたとあっては、さすがの龍之介もひどくこたえているように見えた。
「……はァ。オマエがいンのに抱けねェとか、どんな拷問だよ」
「……今はゆっくり傷を癒せ。また近いうちに会いにくる」
慰めの言葉を口にすれば、深淵な宇宙の果てをのぞき込むかのような黒曜石の瞳とぶつかった。
「……次があるなんて保証が、どこにある?」
ひどく静かな問いに、胸を突かれた。
ほんの数時間前に刺され、死にかけた男の言葉は、信じがたいほどの重みをもって深く胸をえぐり、地の底から震えるほどの恐怖感がせり上がってきた。
「……っ」
「次なんて来ねェ。……そういう世界でオレらは生きてる。……そうだろ?」
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