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命の燃やし方 (龍之介side)
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伸ばした指先で確かめるように士郎の頬をさすり、ゆっくりとそのシャープな輪郭をたどった。
「……オマエがこうして息してるって感じるだけで、何でだろうな……、スゲェ胸が痛くなる」
愛しくて……失うかもしれないと考えただけで気が狂いそうだ。
「……だったら、平和に暮らしゃイイ。危険なモン全部を投げ捨てて。……生きていけンだ、それでも、生きてはいける」
だが、この命を燃やし尽くして生きたとは、到底言えない。
きっと自分は後悔する。
死の間際に、なぜもっと限界スレスレまで高く飛ばなかったのか……飛べたのにと、悔やむだろう。
その歪んだ感情の矛先が愛しい恋人に向かうのが怖かった。
だから手放そうとした。
何度も……生きている世界が違うと。
そのたびにふざけるなとののしられ、温もりを移され、海よりも深く大地よりも豊かな信頼を寄せられて。
「……やっぱ、ムリだ。オマエといンのに先のことなんざ考えられるか……っ」
ぐいっと愛しい身体を強く抱き寄せた。
「腹が裂けたら、また縫わせりゃイイ。血ィ失ったら、今度はオマエのをわけてくれ……」
「……血液型が合えばいくらでもわけてやれるが、あいにくと調べたことがなくてな」
思わずニヤリと笑えば、
「……何がおかしい?」
訳がわからないと、愛しい男の眉間にしわが寄る。
いい機会だから教えてやろうかとも思ったが、この男のことだ、己の血の秘密を知れば無闇やたらと人に与えかねないと肩をすくめた。
「……何でもねェよ」
事は降ってわいた偶然かつ、それこそとびきりのシークレットだった。
今のところ知っているのは自分と桜華のオーナーであるリン、そして桜華の情報を一手に管理していたハルトの3人だけだったが。
情報はどこでどう漏れるかわからないため、データ上はO型のRh+と即座に改ざんしていた。
事実を知れば世界中の製薬会社や諜報機関が殺到し、争奪戦を繰り広げるに違いない。
けして知られてはならない。
その血に無限の価値があることは。
リン直属のラボでのみ極秘で臨床研究が行われていたが、あくまで偶然手に入った匿名サンプルとして扱われおり、そのデータ上も血液採取後、肺炎で亡くなったと改ざんされている。
研究すら万が一のことを思えば止めさせてしまいたかったが、研究者は昼夜を問わず寝食も忘れ奇跡の血の解明に全力をそそいでいた。
己が戦いの中でしか生きられないように、科学者である彼らにも彼らなりの美学があり、命の燃やし方がある。
研究したところで実を結ぶとは限らない。
基礎研究など、むしろその99.99%があえなく砂塵に帰すものだ。
だがその積み重ねの果てに奇跡の発見があると信じればこそ、道なき道を進んで行ける。
果てしない自己犠牲と美学に彩られた世界から、今さら光を奪うことなどできはしない。
研究室の、あの火傷しそうなほどの熱量に触れてしまったら、誰しも思う存分やれと背中を押してやりたくなるだろう。
まぁいざとなれば自分が命を張って護れば済む話だと、目をつむった。
世界中を敵に回すのもまた一興だと笑えば、どこまでも平凡に生きることを願う恋人は激怒するだろうが。
そういう男に惚れたのだとあきらめてもらう他ないだろう。
熱いマグマの中で狂い咲く徒花のように。
鮮やかに命を燃やし、散り際はせめて潔く。
愉快な人生だったと華やかな花火をブチ上げ、オマエの腕の中で惜しまれながら笑って逝きたいものだと、束の間の白昼夢に酔った。
「……だから、何をニヤニヤ笑ってる?」
ついにしびれを切らした恋人に、容赦なく腕をひねり上げられた。
もはや身体中が痛すぎて、痛みに飽和した脳は新たな痛みを痛みとして感じ取る余裕を失っていたが、そんなことを口にすれば会話することすら拒否されそうで、一応は形ばかり痛がって見せた。
「……っ、痛ェな。これでも重病患者だぞ? 加減しろよ、なァ……?」
「重病人ならそれらしく振る舞ったらどうだ?」
「まァ、そうなンだけどよ……、カラダの極一部が妙に元気で、参ってるわけよ」
言いながら、ニヤリと士郎の腕を取り熱を持つ場所へと導けば、
「……っ」
愛しい男の指先が熱いものにでも触れたかのように、ビクリと震えた。
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