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看過できない (士郎side)
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「てめぇ、何勝手に入ってきてんだよ!?」
まだ配り始めたばかりだったのか、カレーはバケツのような鍋3つに、未だ溢れんばかりに残っていた。
「この鍋一つでいいんで、任せてもらえませんか?」
「触んなっ。つーか、てめぇ、誰だよ!?」
「あー、その子はわたしの客人です」
「変人マックスの客人……!?」
「てか、そいつリューの恋人じゃね!? んだよ、リューが刺された途端乗り換えるとか、どんだけ尻軽だよ!」
「……っ、誤解です……っ」
さすがにその言葉は看過できず、反論したが、一方的にヒートアップし始めた周囲の誰一人、まともに聞いてはくれなかった。
「マジ、リューの色かよ!」
「そんなに具合いいなら、相手してくれよ、なぁ?」
「……っ」
ムズッと尻をつかまた挙句に、下卑た表情でニヤリと笑われ、さすがに嫌悪感で総毛立つ。
だが、自らその手を振り解くより早く、マックスが男の手をピシャリと叩き落としてくれた。
「……痛っ、何すんだよっ」
「お触り禁止です。この子はわたしのお気に入りですから、お痛したらひどいですよ?」
「は……?」
思わず周囲と同じく目を見開いた。
「……いやいやいや、おまえはリューのケツ追っかけ回してんだろ?」
「確かにあの垂れ流しの色気と美声は魅力的ですが、実はこの小一時間ほどで心変わりしまして」
言いながら、こちらに妖しげな流し目をくれる。
「……!?」
ゾワリと肌が泡立ち、思わず一歩引いた。
「意味わかんねぇぞ、こら」
まったくである。
「つまりは、あなた方がここで素直に引いてくださると、この子の中でのわたしの株も上がるというわけで」
いやいやいや、それはどうかと思いつつ、どうやら協力してくれようとしていることだけはかろうじて理解できた。
「はぁ? てめぇやこいつ以外の誰得だよっ」
「もちろん、あなた方にもメリットはありますよ」
ニコニコにっこり、空恐ろしくも満面の笑顔のマックスは、厨房の男達に歩み寄ったかと思うと、その耳元でこそっと何事かをささやいた。
途端に男達がよしっ、とガッスポーツでうなずいた。
「好きにしてくれていいぜ!」
態度一変、マックスに負けず劣らぬ満面の笑顔で鍋の前をゆずってくれたのだった。
いったいどんな密約が交わされたのかと空恐ろしさを感じながらも、とにかくこの壊滅的に不味いカレーをどうにかしなければという使命感にかられ、再び鍋をトロ火にかけた。
スパイスは火にかけると香りが飛ぶため、まずは生煮えの野菜に火が通りことが、この場合の応急処置としては最適に思えた。
個性豊か過ぎて不協和音を奏でまくるスパイスが我慢できるレベルに落ち着いたところで、棚にあったココナッツミルクで旨味とまろやかさを加え、厳選した少量のスパイスで味を整えた。
再度味見してみると、悪くはないが、何かが足りない。
ベースはチキンか……。
棚を見渡すと、ハチミツとココアパウダーが見て取れた。
両方を手に取り、少量加えると、
「カレーにハチミツ……!?」
「ココアって、正気かよ!?」
周囲が嫌な感じにざわめいたが、知ったことではない。
もともと壊滅的にまずいカレーなのだ、劇的に旨いレベルには到達しなくとも、絶対に元よりマシに仕上げる自信があった。
スパイスが飛ばない程度に全体を馴染ませると、味を見てよしとうなずき、米と共に皿によそった。
どうぞと厨房の男達に差し出してみたが、みなハチミツとココアに恐れおののいて、腰が引けてしまっている。
仕方なしにマックスに目をやると、半眼になりながらも数秒躊躇した上で皿を手に取ってくれた。
まずは匂いをかぎ、恐る恐るスプーンを手に取ると、少量の米とルーを口にした。
パチクリとその上品でたおやかなタレ目が見開かれ、二度ほど瞬きをすると、ガツガツと食べ始める。
それを見た男達が顔を見合わせ、これまた恐る恐る自らよそったカレーに口をつけると……。
「すげぇ!」
「マジ旨ぇ!」
「何だこれ!? マジシャン! あのカレーをこの短時間でどうやって化けさせた!?」
絶賛の嵐である。
そうして鍋一杯に入っていたはずのカレーは瞬く間に跡形もなく消えていったのだった。
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