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甘えと欠落 (士郎side)
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目覚めたら、未来の話をしよう……そう思っていたはずなのに、開口一番舌打ちされ、さすがに面食らった。
おまけにその理由が、
「アイツら、マジむかつく……。オマエの手料理なんざ、オレだって食ったコトねェのによ……」
珍しく龍之介がスネている。
何とも愛らしい理由で。
思わず笑みがこぼれ、それだけでは飽き足りず、ついには声を上げて笑ってしまった。
「……ンだよ」
横向きに傷ついた身体を横たえながら、上目がちに睨みつけてくる瞳の凶悪な色っぽさに、心臓が跳ねた。
それでいて胸の奥深い場所がポカポカする。
……生きていてくれて本当によかった。
改めて愛しさが溢れ、龍之介の頬にそっと手を伸ばした。
「アレクの許可がおりたら、いくらでも食わしてやる。ちなみに粥も得意だぞ?」
「……どうせなら、肉が食いてェ」
「なら、肉の風味が充分に味わえる旨い粥を作ってやろう」
「結局、粥じゃねェか」
龍之介が嫌そうに鼻にしわを寄せたが、多臓器損傷の上、点滴で数日過ごした身体に、いきなり消化の悪い物は入れられない。
それは龍之介もわかっているはずなので、結局は甘えているだけなのだ。
「……何ニヤニヤしてやがる?」
そんなに顔に出ていたかと、伸ばしていた手を引っ込め、己の頬を撫でると、慌てて表情を引き締めた。
「そう言えば、おまえの好物は何なんだ?」
聞きながら、濃密な時を過ごしたようで、実は互いに知らないことが山とあるのだと、改めて思い知らされた気がした。
「基本、何でも食うぜ? けど、やっぱ肉だな」
肉はわかった。
「唐揚げとかハンバーグとか、そういった料理の種類を聞いているんだが」
「あー……、食えりゃ何でも?」
龍之介が硬めの黒髪をポリポリとかいた。
こいつ……料理にまるで興味がないな、と半眼になる。
そんな龍之介が自分の手料理に興味を示してくれたことは素直に嬉しかったが、食から得られる幾多の幸福感を教え込んでやらなければと、より一層の使命感が募る。
「リーダーのおまえがそんなだから、食堂の飯があそこまで悲惨なまま放置されているんだと、よくわかった」
「確かに、ありゃ酷ェが……、最低限食えりゃよくねェか? 他にやんなきゃなンねェことがいくらでもあるんだしよ」
「言いたいことはわかる。だが、あれでは士気にも関わるぞ?」
あの食堂の混乱と熱狂は普通ではなかった。
溜まりに溜まった不満がいつ爆発してもおかしくはないように見えた。
誰より秀でた肉体を持ち、リーダーシップがあって頭の回転も早い龍之介だが、かなり特殊な育ち方をしたせいか、時折驚くほど抜けている部分があった。
「あの食事内容では、オレなら3日と我慢できない。今すぐ改善すべきだ」
「改善っつってもよ……」
「調味料は厳選しろ。腕のない人間にあそこまでのスパイス類は扱えない。あるものはすべて放り込んでおけばいいだろうの精神で、単純なはずのカレーが世にも恐ろしいカオスと化していたぞ」
「まァ、目には浮かぶな……」
「あのクソ不味い飯を食わせておいて、戦場で戦ってこい? ふざけるのもいい加減にしろ!」
こちらの熱意に気圧されたように、龍之介の頬が引きつった。
「本格的な改善はオレが移ってきてからになるだろうが、まずは誰でも作れる簡単で旨い料理のレシピを2、3伝授してやる」
あの食堂での熱狂が去らないうちであれば、聞く耳を持つ者もいるだろう。
「……って、また食堂にこもるつもりかよ?」
「あんな状態を放置してきた、おまえが悪い」
オレならとっくに鍋をひっくり返していると詰め寄れば、龍之介が喉の奥でうなった。
「あまりのまずさに食べることを放棄して、サプリや保存食でしのいでいる者までいるんだぞ。充分な栄養補給ができなければ怪我も誘発するし、そもそものパフォーマンスにも影響しかねない。それでも放置しろと、おまえは言うんだな……?」
もとより食事から得られる幸福感を、この男は知らない。
言って理解できないのなら、行動でわからせるまでだ。
少し待っていろと言い置くと、アレクにかけ合うため、ひとり部屋を後にしたのだった。
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