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静かな怒り (士郎side)
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もう一度、今度こそ広く行き渡るよう大量に粥を作り直す頃にはすっかり昼食の時間となり、それらを配り終えて足早に病室に戻れば、ドス黒いオーラを漂わせた龍之介が冷たくこちらを睨みつけてきた。
「……ずいぶんゆっくりなお帰りだったじゃねェか」
龍之介は横向きにベッドに横たわったまま、モニター状のPC端末に視線を戻してしまう。
ブルーライト除けのレンズ越しにほんの一瞬だけ流れてきた視線の冷たさに、ゾクリとした。
いかんせん、あまりにも放置し過ぎたか?
ヒヤリとした焦りが募る一方で、冷たくも鋭い表情もまたひどく魅惑的で、フラフラと近づき触れたい衝動にかられた。
あまりに無節操な己を戒めるため、密かにグッと拳を握りしめ、手の中の保温容器をサイドテーブルに置いた。
「……すまない。予想以上に盛況で、粥を作り直してたんだ」
「……へェ?」
冷ややかな声が、毒のように甘く響く。
責められているとわかっていても、魅惑的な声の響きに惑わされ、息が上がる。
「……腹が減ったろ?」
とりあえずは食え、と保温容器の蓋を取り、スプーンと共に中華風味の粥を差し出せば、わずかに顔を歪めながらも半身を起こし、黙って皿を受け取った。
前にも思ったが、眼鏡をかけた龍之介はどこぞのヤングエグゼクティブのような理知的で大人びた雰囲気を漂わせ、いつにも増していい男度合いが上がる。
それでいてガラス一枚隔てられているだけなのに、ひどく遠くにも感じられ、言いようのない寂しさを覚えた。
冷めた態度とは裏腹に、確実に減っていく容器の中身にとりあえずはホッと安堵しながら、それきり目を合わせようとさえしない、つれない恋人の一挙一動に視線が吸い寄せられてしまう。
褐色の肌は発熱して汗をかいているせいか、普段にも増して艶やかに煌めき、汗を吸った硬い黒髪は手で無造作に後ろに流され、疲れた大人の色気を放つ。
日本人離れした彫りの深い顔立ちは、褐色の肌同様に遠い異国の血を感じさせ、その表情は時に驚くほど高貴にも獰猛にも映り、底知れない深みをたたえていた。
薄く大ぶりな唇が己の作った粥をすするのを、飽きることなくいつまででも見つめていられる気がした。
百獣の王が休息する姿を、自分だけが見守ることを許されているのだという特別感に酔う。
不意にわずかにな粥が唇の端から流れ落ちたかと思うと、肉厚の紅い舌が大胆にそれを舐め取った。
「……っ」
思わずゴクリ……と喉が鳴り、居たたまれなさに手の甲で己の唇をそっと押さえては、震える吐息を噛み殺した。
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