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攻防 (士郎side)
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すべて喰らい尽くしてしまいたい……それでいてすべてを与え自分は跡形もなく消え去ってもかまわない……そんな狂気と紙一重の想いに震えた。
「……見ているだけより、こうして触れ合った方が遥かに深く満たされるだろう……?」
「……違いねェ」
うっとりとつぶやく濡れた声の響きに目眩を覚えながら、
「……機嫌は直ったのか?」
ためらいがちに問えば、
「端から悪かねェよ」
と返され、嘘をつくなと睨みつけた。
「どう見ても不機嫌だったくせに」
「そりゃまァ、ちょいイラつきはしたけどな」
冗談のようにおどけて、ニヤリと笑って見せる。
そのくせ抱きしめる腕の力は強く、痛いくらいで。
いったいどこまでが冗談でどこまでが本気なんだか。
もどかしくも甘い、痺れにも似た愛しさに胸をつかまれながら、そっと震える息を吐き出した。
闇に沈むこの男は元来、人を欺く天才だ。
魅惑的な声や表情一つで、己の傷も問いの答えもすべてを容易に煙に巻く。
こんな風に傷ついた身体を面前にさらし、苛立ちをぶつけてもらえる、ただそれだけのことでさえ。
もはや奇跡に近い幸せなのだと、熱い塊が胸の底から込み上げてくる。
二人が別の人間である以上、離れ離れの時が存在するのは至極当然のことで、前を行く恋人に必死に追いすがり追いつこうともがけばもがくほどに、すれ違いや諍いも増えていく。
だが容易に思い通りになるような相手なら、端から惹かれなどしなかった。
火花を散らしてぶつかり合うくらいが、自分たちにはきっとちょうどいいのだ。
そうした別離の苦しみや嫉妬があるからこそ、その果ての触れ合いがよりかけがえのないものに思え、甘くも鋭くも胸に突き刺さるのだから。
不意に目の前の男を力の限りに抱きしめ組み敷き、己の欲望で深く貫きたい欲にかられたが、さすがにダメだと首を振る。
だが、
「……オレを抱きてェか?」
触れ合っている布越しの肌からさえ想いが流れ込むのか、すべてを見透かしたかのような深い瞳で見つめられた。
濡れた黒曜石の瞳に、情けなくも恋に溺れた男が映っていた。
欲しい……欲しいに決まっている……!
だがそう言えば、たとえ傷が開こうが、この男は何のためらいもなく自分を内に迎え入れるだろう。
その果てに失血死しようが、笑いながら何の後悔もなく散っていく。
冷たいようでいてその実、情に脆く、計算高いようでいて誰より本能に忠実な龍之介だから、それを止めてやるのは自分の役割なのだと欲望を押し殺し、なめらかな褐色の頬に触れた。
「……そんな顔色のおまえを抱くくらいなら、一生誰も抱けない身体になった方が遥かにマシだ」
「……っ」
目に見えない熱い風が二人の間を駆け抜けた。
きっと龍之介にも伝わったはずだ。
もう他の誰も欲しくないのだと、この身も心もおまえただ一人だけのものなのだと。
「……ったく、煽りやがって……」
ため息のように甘く笑う。
「……だったらよ、オマエのこの指に犯されてやるってのはどうだ?」
手首を取られたかと思うと、見せつけるかのようにねっとりと指先から根本の感じやすい部分にまで肉厚の舌をはわされた。
「……っ」
「……犯しながら、犯される。……たまンねェなァ」
「……っ」
「つっても、昔ほどバックは使ってねェからよ、せいぜいやさしく頼むぜ?」
甘く誘いかけられたかと思えば、何の臆面もなく他の男を引き合いに出され、カッとなった。
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