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心の傷 (士郎side)
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「けど、シロちゃんもよく耐えたよなぁ」
渋る龍之介を無理やり寝かしつけた後。
改めて組織の各セクションを巡り、主だったメンバーに面通しされた帰り道、ユーリが感心したようにつぶやいた。
「惚れてるヤツを刺されたりしたら、オレなら迷わず確実に一番相手が苦しむ方法で報復しちゃうけどねー」
笑顔で世にも物騒な言葉を吐くユーリに、軽く顔が引きつった。
実際トーマの身体には浅くはない数多の暴行の跡が刻まれていた。
あれを命じたのは確実にこの人なのだろうと、おちゃらけた態度の向こうに容赦のない非情な一面を見た気がして、ヒヤリとした。
「ああいうの、シロちゃんは許せないたち? けど、それだとこの先ちょっとつらいかなぁ」
どうしたって必要になるからね、とユーリが浅く笑う。
「リューがああいうヤツだから、汚れ仕事はどーしたってある程度は下が担ってやんなきゃなんない。締めるとこは締めないと、こんな荒くれ者ばっかの組織なんて、ホントあっという間に崩壊しちゃうからさ」
必要と思えば望まないことだってやる。
どんな非情にもなれる。
それは果たして強さなのか哀しさなのか。
この人を見ているとわからなくなる。
「……あなたはそれでいいんですか?」
龍之介が周囲をその光で魅了すればするほど、すべての陰を背負い理不尽に恨まれて。
自分は組織のためになすべきことをしただけなのにと不満には思わないのだろうか?
「んー、まぁ、扱い酷っ! とか思わないわけじゃないけど、それでみんなが笑って過ごせるなら、いーんじゃねーの?」
一度大きく伸びをすると、後頭部の辺りで指先を組み、のほほんと笑う。
淡い茶の瞳には組織に対する確かな愛情が透けて見えた。
「あなたはなぜサブリーダーを引き受けたりしたんですか?」
ふと疑問に思い、聞いてみた。
いらぬ重責を好んで負うようには到底見えない。
のらりくらりと、責任のある立場からは逃げるタイプのように思えるのだが。
「ははっ、来たばっかのシロちゃんから見ても、面倒ごとばっか押しつけられる損な立場だよなぁ」
ユーリの瞳が過去を回想するかのように遠い光を帯びた。
「オレにとっちゃ、ここは故郷っつーか、そりゃあ、とびきりの遊び場だった。仲間もいたし、それなりに幸せな時を過ごさせてもらった。何よりすっげぇ惚れてるヤツらがいてさ」
「キリヒトとジンさんのことですよね」
「同時に二人のヤツを同じくらい好きになっちまったら、シロちゃんならどーする?」
いらずらっぽい瞳でのぞき込まれ、素直に想像できません……と答えた。
克己への一方的な恋心に疲れ、龍之介を疎みながらも惹かれていき、気づけば克己への想いは綺麗に昇華していた。
自分はきっと不器用なのだ。
二人を同じように愛することなど想像すらできない。
ユーリはシロちゃんらしいな、と笑った。
「仲間は上にも下にも腐るほどいたけどさ、中でも飛び抜けて光を放ってたのが同年代のジンとキリだった」
光と闇、陽と陰。
「まるで正反対の二人に、気づけば同じくらい惹かれてた。もちろん最初はてんで無自覚でさ。あー、この二人すっげぇお互いが好きなくせして、めっちゃすれ違ってんなー、オレが何とかしてやんなきゃって妙な使命感で割って入ってるうちに、身体から崩れて、泥沼にはまったっつーか」
ユーリの笑顔が不意に陰りを帯びた。
「……触れ合うとさ、いろんなもんが伝わってくんじゃん? 切なさとか愛しさとか、もどかしさとか。ジンは肝心なことは全部笑顔で煙に巻いちまうし、キリなんか端から色恋なんざくだらねーって態度だったし。けど、ビンビンに伝わってくるわけよ。もう痛くってさ」
長い笑顔を浮かべるその横顔があまりに苦しそうで、どうにかしてその痛みを取り除いてやりたいと思いながらも、結局は黙って聞くことしかできなかった。
「だから、されたそのままを返そうとした。言葉でいくら言ってもダメなら、せめて伝わって欲しくて。……伝わったとは思う。けどどっちも頑固でさぁ」
何だっつーんだよなぁ、とため息をつく。
「結局はすれ違って、どんどん埋められない溝が広がって、何もできない自分を呪いながら隔たってく二人を見てることしかできなかった。壊れていくキリを、出て行くジンを、引き留める力なんてこのオレにあるはずもねーのに……」
「……ユーリさん」
「好きだって、せめて言わせてやりたかった。最期の瞬間に何があったのかなんて、知らねーし聞きたくもねぇ。……ただ、壊れちまった親友が、せめて幸せな最期を迎えたんだって信じたい。それくらいの救いは、あってもいいよな」
小さくなる声。
自分は道を誤ったのではないかという恐怖に震え、止まる歩み。
いつもひょうひょうとした男の弱みに触れると、たまらなく癒してやりたくなる。
思わず抱きしめていた。
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