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乱してはならない (士郎side)
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病室に戻ると、龍之介は案の定、すでに目覚めていた。
ベッド上でブルーライト除けのメガネをかけ、半身を起こし傷に触らぬよう斜めに枕に背もたれた体勢で、パソコンに高速で何かを打ち込んでいる。
戻ってきた気配を感じないはずがないのに、まるで存在しないかのごとく無視されて苛立ちを覚えはしたが、己も桜華の生徒会長としてあらゆる決断を迫られる立場になったからこそわかる。
この集中を乱してはならないと。
組織において、あらゆる物事はリーダーの決断なくしては先に進まない。
ましてや龍之介のそれは子供たちの命に直結する大事だ。
今この瞬間にあらゆる選択肢の内、どのプランを選ぶのが最善かつ、より多くの子供たちを少ないリスクのもとで救い出せるのかを選び取っている。
日頃自分が下している決断など龍之介のそれと比べたらあまりに軽く、同じくくりに入れることすらおこがましい気がしたが、それでも決断を下す苦しさの片鱗くらいは理解できた。
どれほどの重みを背負おうが人を食ったような態度で笑い飛ばすのだろうが、手の平からこぼれ落ちていく命に苦悩し、己の非情さに嫌気がさす夜もあるだろう。
それでも、ただ耐える。
草木が襲い来る厳しい自然をあるがままに受け入れるように、ほんのわずかに目を細め、遥かなる先を見すえ耐える日々が、やがて物言わぬ凄みに変わる。
己を支配する愛や恋といった甘やかな感情すべてを排除したとしても、一人の男として素直に尊敬できた。
いずれこの男を全力で支える立場になれることを、誰にともなく感謝せずにはいられない。
一瞬にも永遠にも思えた時を経て、ようやく龍之介の手の動きが止まり、視線が流れてきた。
「……こっちに来い」
低く強張った声音に、目敏いやつだと苦笑しながら近づいた。
「……こんなンつけられやがって」
腕を取られ、引き寄せられたかと思うと、首筋に噛みつかれた。
「……っ」
ユーリにされたのとまったく同じ場所を。
甘噛みというにはあまりに激しく、ともすれば喰い尽くされるのではとの恐怖が過ぎる。
「……あンまオレ以外を甘やかすな」
吐息交じりの、毒のように甘い声が脳を揺らす。
「おまえが……そうし向けたんだろう?」
龍之介がわかったか、と喉元で低く笑う。
「あんなンでもココには必要なオトコだ。不安定なままじゃ色んなトコに支障を来たすからな」
だが、と声音が一転して剣呑な色を帯びた。
「……さすがにここまで許したつもりはねェ。他のオトコの跡を残してくるなんざ、ひどくしてくれって言ってンのと同じだぜ……?」
指先の爪でカリッと首元の痣を引っかかれただけで、ゾクリと肌が泡立った。
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