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未来へ 2 (士郎side)
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「……っ、何でもない……」
「ぜってぇエロ方面だろ。アイツ絶倫そうだもんなぁ。盛りすぎて、頭ん中ピンクに染まってんじゃねーの?」
どこもかしこも否定できず、言葉に詰まった。
「今はそういう話をしてるんじゃなくてだな……」
「とにかくだ。雪夜には何もさせるつもりねぇから、よけいな口出しすんな」
去ろうと踵を返す煌牙の手を強引につかんだ。
「雪夜は守護するべき子供じゃない。あくまでも、おまえと同じ男なんだぞ?」
「……っ、だから何だよ!? こいつはさんざん苦しんできたんだ! この先は一つの苦労だってさせねぇ。……オレがそう決めた」
その何が悪いのだと、睨みつける。
気持ちは痛いほどわかった。
わかるのだが……。
「あの……」
張り詰めた空気感の中で睨み合う士郎と煌牙にオロオロしながらも、雪夜がためらいがちに割って入ってきた。
「僕もできるなら、何でもいいから坊の役に立ちたいです。守られてるだけなのは……さすがに嫌かな」
煌牙の顔色をうかがいながらも自分の意見をしっかり口にする雪夜に、
「……は?」
気に食わないと不機嫌丸出しで、煌牙がただでさえ鋭い目と眉を釣り上げた。
「……っ、士郎さんの言うように、僕だって男です! 今よりもっと力をつけて、坊を守れるようになりたいんです……っ」
雪夜はうろたえながらも、グッと小さな拳を握りしめ、強い覚悟を宿した瞳で愛する男を見つめた。
たじろいだのはむしろ煌牙の方だ。
一途な瞳に射抜かれ、愛しさにやられ、目に見えて紅くなっていく顔を必死に背け、毒づいた。
「……っ、おまえに守ってもらうほど落ちちゃいねぇよ。もう病気でフラついてた頃のオレじゃねぇんだ。いい加減その過剰な心配癖をどーにかしやがれ!」
「そんなの……無理です」
「何でだよ!?」
「……っ、そんなの好きだからに決まってるじゃないですか……!!」
涙で潤んだ目で煌牙だけを見つめ、雪夜が叫んだ。
「あなたのことが好きだから、他のことなんてどうだっていい……っ。守られるより守りたい。それが僕なりの幸せなんです……!」
「……チッ、そんなん受け入れられるかっ」
「どうして……?」
「おまえ、オレの女だろ? ……どうして黙って守られてらんねぇんだよ」
長めの髪をイライラとかき乱す煌牙に、雪夜が真っ赤になりながらも言い返す。
「確かに僕は坊の女……ですけど。でも男なんですよ……?」
「だから……っ」
互いが互いを想うがゆえに、どこまでいっても平行線をたどる会話に、微笑ましくもくすぐったい気分で、割って入った。
「二人とも少し落ち着け」
「邪魔すんじゃねーよ」
「……僕達自身のことなので」
「深呼吸して、相手の立場になって考えてみろ。煌牙、おまえが雪夜だったら、黙って守られていられるか? 外見は少女めいていても、男なら愛する者を守りたいのは当然の欲求だろう。そんなささやかなプライドも満たしてやれなくて、よく幸せにしてやるなんて言えたものだな」
「……っ」
「雪夜、おまえが煌牙なら、自分のために厳しい道をたどってきた恋人を、この上なく甘やかしてやりたくはならないか? 自分なんて煌牙に愛される価値はない……そう思って甘えるのを遠慮しているようだが、そんなんじゃいつまで経っても煌牙の罪悪感は薄らがないぞ。上手く甘えてやれば、そのうち煌牙だって落ち着いて、おまえの意見を聞いてくれるようにもなるだろう」
二人が虚をつかれたように黙り込む。
相手を強く想い過ぎると、とかく相手が見えなくなりがちだ。
こうしてやりたい、ああしてやりたいという気持ちが強過ぎて、相手にも同じ欲求があることを失念してしまう。
「……坊、守ってくれるのは本当に嬉しいです。大事にしてくれて……ありがとうございます」
「……っ」
「僕の過去は百人が百人とも目を背けるような悲惨なものなのかもしれない。……でも、身勝手だけど、あなたに近づくために一心不乱に駆けてきた時間に後悔なんてないんです。……たくさんの人を手にかけてきた自分がそう言うのは間違ってるかもしれないけれど、けして不幸ではなかったって、それだけは信じて欲しいんです」
あなたにだけは……と雪夜が強さと儚さを同時に宿した瞳で微笑んだ。
「……くそっ、どーしてそう砂糖菓子みてぇに甘い言葉ばっか吐きやがる?」
「……? 坊が好きだから……」
煌牙は雪夜を強引に抱き寄せると、噛みつくようなキスをした。
「……ったく、甘やかしてやりてぇのに遠慮ばっかするし、身体はグズグズに溶けてるくせして奉仕ばっかしようとするしよ」
「坊……っ、ここでベッドでのことは……」
さすがに恥ずかしいと、雪のように白い頬がピンクに染まる。
「そうやって素直に照れてりゃかわいいのによ。ったく、変に強がんな」
「……変じゃないです」
煌牙の腕の中で、雪夜がぷくっと愛らしく膨れた。
「……僕だって坊に触りたい。一方的に愛されるより、その方が坊を身近に感じられるから」
「……っ、けどよ、どうにもこう……」
「嫌……ですか?」
「嫌っつーか」
「嫌じゃないなら、慣れてください。……お願いします」
「……っ」
「煌牙、かわいい恋人のたっての願いだ、叶えてやれ」
「……ったく、好きにすりゃいいだろ」
半ば自棄になりながら、煌牙が吐き捨てた。
その頬がうっすら紅く染まっていたが、武士の情けだと、見て見ぬ振りをした。
不意にここに来た当初の荒んだ姿が思い出され、人間味を帯びたその姿を、ひどく感慨深い思いで見つめてしまう。
あの頃は触れれば切れるナイフさながらに、まともに会話することすら難しかった。
命の極に立ち、恐怖にすくむ己に鞭打ち、必死にその生を燃やし、生きていた。
痛々しくて、とても見ていられないほどに。
雪夜と再会し想いをつなぎ、ようやく希望が芽生え、命がけの手術を乗り越えて今ここに立っている。
命とはすごいものだと、改めて感動させられた。
ギリギリの場所からでも蘇り、不死鳥のごとく羽ばたくことができる。
もちろんいくつもの強運が重なった。
リンの支援、人工心臓の開発が間に合ったこと、ゴッドハンドのルイによる手術、桜花の設備、そして愛する雪夜がいる、この世への強い執着心。
そのどれ一つが欠けても助からなかったに違いない。
願わくば精一杯その生を謳歌して欲しかった。
最後は笑顔で終われるように。
心からそう願った。
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