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余裕などない(龍之介side)
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「……誰が誰を泣かせるって?」
放たれた殺気に、場がシン……と静まり返る。
「余裕ねーなぁ」
一方、一人当事者のジンだけが、急所を狙われながら少しも動じていなかった。
「ギラギラしやがって、んな人殺しそーな目、すんじゃねーよ」
そんなんでよく一人残してきたなと、あまつさえ同情半分の呆れた目を向けてくる。
威嚇など、コイツには無意味だ。
無意味なことに熱くなるほどアホらしいことはない。
「……るせェ」
チッと舌を鳴らし、苛立たし気にフォークを持つ手を引いた。
余裕がないことくらい、自分でもよくわかっていた。
だが、ジンに本気を出されたら。
最悪、奪われるかもしれないとの恐怖が拭えない。
この育ての親は無自覚なまま、太陽のように人を魅きつける。
士郎が転ばない保証など、どこにもなかった。
「なぁ、今度ここに連れて来いよ。酒でも飲み交わしながら、ゆっくり話してみてーし」
聞こえない振りをすると、
「ま、こっちから会いに行きゃいーのか」
のほほんと、とんでもないことを言い出した。
「こンの、尻軽が…っ。アイツ食いやがったら、マジ殺すからな……?」
「ジンさんってホントにそんな手当たり次第な感じなんだ?」
マコトの驚き混じりのつぶやきに、ユージンが心底呆れたようにうなずいた。
「……ここにいるヤツらも、大方は食われてるんじゃないか」
周囲のテーブルにいる幾多の兵士達を見て、マコトも軽く言葉を失っている。
「人聞き悪ぃな。あっちから寄ってくんの、味見してるだけだぜ? つーか抱き合ってみると、実際色んなことが見えるんだって」
だから一緒に戦う可能性のある相手とは、なるべく寝るようにしているのだと、ジンが話題にそぐわぬ、やけに真っ直ぐな目で言った。
「けど、さすがに嫌がるヤツまではヤんねーよ? 別にそこまで困ってるわけじゃねーし」
純粋に楽しむなら、こいつがいるからな、とジンが二カッと笑いながら、たくましいダイゴの肩を抱いた。
それでいいのか? と全員が遠い目になり、同情の眼差しを送ったが、ダイゴは表情一つ動かすことなく、黙々と目の前の食事を平らげていた。
その姿は、まるで苦行を苦行と認識できぬまま、静かに耐え忍ぶ、大昔の修行僧のようで。
これはこれでいいカップルなのかもしれないと、誰もが納得し、食事を再開した時だった。
ふと気になって、隣に座るジンを見た。
「……で? 実際ンとこ、いつから意識が戻ってた?」
知りたいのは病室で士郎を抱いた時、隣に寝ていたジンが起きていたか否かだ。
ジンしか目に入っていないダイゴに見せつけるのと、士郎に興味津々のジンに盗み見られるのとでは、まるで意味合いが変わってくる。
「あー、それな」
ジンがニヤリと笑った。
「こいつが寝てるオレの横で、勢いよくナニをブッ放した時だな。よりによって、顔中にブッかけやがってよ。指で喉奥まで犯されて、その匂いで一気に目ぇ覚めた」
横に座るダイゴを見上げながら、あっけらかんと言い放ったジンに、自分をはじめ、ダイゴ以外の全員がブハッと口の中の物を吐き出した。
「……うおっ、汚ぇなっ」
眉を寄せるジンに、
「どっちがだっ」
「……マジ、飯ん時に勘弁してくれよっ」
「……サイテーだな」
非難の声が山のように飛び交った。
「んな、怒んなよ。つーか、あのシチュエーションはヤバかった。寝たフリすんの、すっげーつらかったんだからな」
「……盛るなら、部屋でヤれよ?」
幼い頃、さんざん間近で濡れ場を見せつけられ、すっかり慣れてしまったとはいえ、さすがに自分もそういうことをするようになった今、親の下事情に積極的に通じたくはない。
「おいおい、何気にまだご機嫌ナナメかよ?」
当たり前だろ、と皿の中のウインナーをジンのソレに見立て、思い切り串刺しにしてやりながら、にらみつけた。
「……少しはくだらねェ理由で利用された、コッチの身にもなってみろ。フツーにキレんだろ」
おまけに、士郎に会いに行くだと?
どこに機嫌が浮上するポイントがあるのか、教えてほしいくらいだった。
「……つーか、ハル」
どこまでも好き勝手に我が道を行くジンはさて置き、これを機に、ずっと引っかかっていた件を持ち出した。
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