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誘い(龍之介side)
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間際から降ってきた毒のように甘い声の威力に、ハヤトがビクリと震え、固まった。
「……ハッ、そんなンで色仕掛けなんざ、できンのかよ?」
「……バカにすんなっ」
「コイツこー見えて、やる時はやるんだぜ?」
ハヤトを羽交い締めにしたままのドルフが、ハヤトのTシャツをめくり、素肌の胸に手の平を這わせた。
「な…っ、放せ…っ」
「アキラ命だからな。たまのご褒美のためなら、何だってやんだ」
「……へェ。おまえはどうなんだ?」
「オレはそこまでの熱はねぇが、アキラを組み敷くのは最高に燃える。ハヤトをからかうのも、権力者のジジイこまして膝まづかせるのも面白ぇし、今の立場にとり立てて文句はねぇよ」
「オレぁ、文句ありまくりだ、ド阿呆が!」
それまで黙っていたカレンが、毒づいた。
黙っていれば、ちょっとキツ目の超絶美人だが、口を開けば柄が悪いにも程がある。
「てめぇは、何様だ? ジンの育てたガキだか何だか知んねーが、エラそうに仕切ってんじゃねーぞっ!?」
「……また、威勢がイイったらねェな。カレン、だっけか?」
笑った瞬間、
「その名前で呼ぶんじゃねぇ!」
思い切り胸ぐらをつかまれた。
腹に突き立てられた拳を、とっさに手の平で受けて、急所を狙った膝蹴りを、肘で打ち下ろす。
「……そんなンじゃ当たンねェよ。色にかまけて、訓練サボり過ぎじゃねェの?」
あえて見下すように、笑った。
沸騰している相手を見ると、どうにも煽りたくなるのは悪い癖だ。
「くそ…っ」
綺麗な顔に青筋を立てながら、カレンがうなる。
「……ここんトコ運動不足だったからなァ。軽く相手してやってもいいンだぜ?」
唇を寄せて、耳元でささやけば、カレンがブルリと身を震わせてた。
甘い毒のような声の破壊力に、一瞬、たじろいだものの、なおさら煽り立てるように、中指を突き立ててくる。
「……いっそ、ベッドで白黒決めるか? お嬢さん」
「あァ!?」
一触即発の空気を破ったのは、リーダーのアキラだった。
「カレンもハヤトも、少し黙れ」
ビクリと、二人が背筋を正す。
他の誰の言うことも聞かない二人だが、アキラには絶対服従、もとい、絶対に嫌われたくないようだった。
癖の強い男達の中心は、やはりこの男か。
なら、狙うなはアキラ一人でいい。
「……おまえなら、わかるよな。飼い主としちゃあ、抱えた商品の価値を知っとく必要がある」
見つめ合う視線に、火花が散った。
やがて、
「……いいだろう」
アキラが答えた。
「その代わり、オレに骨抜きにされるようなら、容赦なく寝首をかかせてもらう」
「はっ、……面白ェ。その賭け、乗った」
ゾクゾクと、震えるような興奮がこみ上げてくる。
昔から、どうにもこの手の男に弱い。
士郎に対して、すまないと思う気持ちがないわけではなかったが、挑まれたら、けして拒み切れない自分を知っていた。
こんな自分について来られる度量の広さと、燃え立たせる男気を併せ持つ相手を、探して……探して。
孤独に彷徨っていた日々は、すでに遠い。
今の自分には、士郎がいる。
心に灯る炎を何ものにも代えがたいと思う一方で、それでもなお飢えたように、前へ前へと突き進まずにはいられない自分は、本当にどうかしていると思った。
時折、ふと考えてしまう。
士郎が心底疲れ切って、この手を離したいと望んだ時。
自分はどうその現実と折り合いをつけるのか。
勝手をする分、共に来るか否か、選択権は常に士郎にあると思ってきたが、どうにも手放してやれそうにない。
士郎の隣に自分ではない誰かが並び立つなど、考えただけで懐のナイフに手が伸びそうだ。
かといって、生き方を変えられるとも思えない。
堂々巡りだ。
「話は終わりでいいな?」
アキラの声で、現実に引き戻された。
あれこれ思い悩んでいる暇はないらしい。
今はとにかく組織を沈静化させ、通常モードに戻し、キリヒトの穴を埋め、士郎と会う時間を作るのが先決だ。
マイクロチップの映像を頼りに独り慰めるだけでは、到底長くは持ちそうにない。
「……ああ。もう行っていいぜ」
「おまえの部屋を訪ねるのはかまわないが、オレにはこの先のセキュリティーを超える権限がない」
「そう言や、そうか。……わかった。消灯間近になったら、迎えに来てやるよ」
アキラは無言でうなずくと立ち上がり、見惚れるような仕草で背を向けた。
姿勢のいい男だ。
全員がその後を追う。
5人が背後のドアの向こうに消えるなり、
「オレらも戻るか」
のほほんと伸びをしたユーリに、
「……仕組みやがったな?」
コイツはやっぱり油断ならねェと、ドスのきいた声で詰め寄った。
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