アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
ホットライン(士郎side)
-
疲れ切って倒れこむようにベッドに入って間もなく、サイレンが室内に鳴り響く。
見れば壁が全面赤く点灯していた。
何事かと思い、飛び起きたのとほぼ同時に、壁の一面がスクリーンと化してして機能した。
スクリーンには事前に学園のオーナーだと特徴を教えられていたリンの姿が映し出されていた。
『ちょっくら急ぎの用事で、ホットラインを使わせてもらった』
ビックリさせて悪いな、とリンが笑う。
年の頃は20代前半から半ばといったところだろうか。
人好きのする好奇心たっぷりな瞳はどこかジンに通じるものがあった。
開けっぴろげでスケールが大きくて、立場の割にやけにフットワークが軽そうなところまで似ている気がした。
『オレのことはリューから聞いてんだろ? 一応は自己紹介しておくと、リューのパトロンのリンだ。よろしくな』
学園のオーナーではなく龍之介のパトロンと名乗る辺りに、何やら含みを持たされた気がするのは気のせいだろうか。
「……よろしくお願いします」
途端にぶはっ、と笑われた。
『んな真面目に警戒されっと、ついつい、いじり倒したくなんだろ?』
なら、どうすれば正解なのだと困惑する。
『は〜、笑った笑った。冗談はさて置き、リューのいない生活にも少しは慣れたか?』
グッ、と込み上げた痛みをこらえ、かろうじて何でもない風を装い、うなずいた。
「……はい」
心臓は相変わらず早鐘を打ち鳴らしていたが、何とか無様な姿は見せずにすんだと思いたい。
「ここを残してもらうよう、わがままを言ったのは自分です。ご迷惑をおかけして、すみません」
『あー、そーゆーの、いらねーから。名義上はオレんだけど、ソコはもう、リューにやったと思ってるからさ』
広大な学園一つをポンと譲り渡す経済力も、気前のよさも、それを引き出す龍之介の底なしの魅力も。
すべてが凡人の理解の範ちゅうを超えていて、何と答えていいかわからなかった。
『つっても、運営続けるからにはちょいちょい、いらぬ横槍も入る。マジめんどくせーったらねーよ』
リンが大きく、ため息をついた。
『親父つながりで一人、預かってもらいたいヤツがいる。フツーなら勝手に放り込むんだけどさ、今回はちょい厄介だっつーんで、こーして相談持ちかけたわけだ』
桜華はその筋では密かに厄介者の巣窟、第二の監獄などと呼ばれる、中高一貫の全寮制の学園である。
学費がバカ高い上に、保護者の許可がなければ自由に敷地外にも出られない。
実質、刑務所とさして変わりはないと、自分自身も常々感じていた。
もはや訳ありの問題児以外入学してこないところにきて、リンが渋るほどの厄介者とくれば、自ずと眉間に皺も寄ろうというものだ。
「……どんな生徒なんですか?」
『んー、まぁ、危険なお家柄のお坊ちゃん、ってやつ?」
詳しい素性は明かせないということか。
「わかりました。何に気をつけて、どんな風に扱えばいいかだけ、教えてもらえますか?」
『嫌だとか、言わねーんだ?』
面白がるような声だった。
「そんな立場にはないですから」
与えられた中で全力を尽くせと教えられて育った。
何より、試されている気がした。
龍之介に相応しい男かどうか。
『特別扱いは無用だ。つっても、野生の虎を放し飼いにするよーなもんだからな。扱いには充分、注意した方がいい。それと一つだけ、そいつは大きな問題を抱えてる。あとで詳細を送るから、目を通しておいてくれ』
「わかりました」
覚悟を決めて答えると、何やら楽しげに笑われた。
『潔い男は好きだぜ? 今度一緒に酒でもどーよ?』
正直、アルコールは苦手だったが、龍之介の過去を知るこの男と、一度ゆっくり話をしてみたかった。
「ぜひ」
答えると、虎は明後日そっちに送ると言い置いて、通信が切れた。
ゆるゆると息を吐き出して、近くの椅子に座り込む。
知らず知らずのうちに、ずいぶんと緊張していたようだ。
上手く振る舞えただろうか?
龍之介つながりの相手に使えない男だと思われるのは、死んでも御免だった。
龍之介は実質、闇の組織のトップに立つ。
立場は容赦なく、人を鍛えるだろう。
一瞬でも気を抜けば、ただでさえ遥か先を行く男の背中は、あっという間に霞んで見えなくなってしまうに違いない。
追いつき、あまつさえ、ぶつかり合い、鍛え合う、鋼の太刀になるために。
今、自分には何ができる?
繰り返し自らに問い、すべてを成長の糧にするつもりで、日々、挑んでいく。
どう対処するか対応策を考えておこうと、役員全員に、即座に召集のメールを送った。
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
12 / 297