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甘えろ(龍之介side)
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飲み切れなかった唾液で濡れたアキラの唇を、指先で乱暴に拭ってやる。
息苦しさに溜まった涙が、瞬きとともに一雫、眦からこぼれた。
士郎相手なら、最高に燃えるシチュエーションだ。
底なしの欲望と、支配し蹂躙し尽くしたい欲求に、身体は狂ったように何度でも熱くなり、イッた端から硬く張り詰める。
それがどうだと苦笑しながら、ピクリとも反応しない下半身を見下ろした。
士郎を想えば達することはできるが、それだけだ。
理性の及ばない高みまでは、遥かに遠い。
傷ついた仔犬をあやし、温めようとする傍らで、その温もりに、自分もほんのわずかばかり癒される。
ついでに溜まったものを吐き出したに過ぎないのだから、当然と言えば当然なのだが。
目の前の仔犬が依然、懐く様子も見せず、独り震えているのでは、よけいに虚しくなるばかりだった。
「……身体、冷えちまったな」
はだけたシャツをかき合わせてやると、よけいなことをするなとばかりに拒まれた。
拘束具のようにまとわりつく残りの布地すべてを脱ぎ去ると、ベッドに腰を落とし、両脚を開いて、奥をさらしてくる。
「……準備はしてきた」
指先で蕾を開きながら、冷えた身体でなおも挑むように、アキラが誘う。
「……バカが、しねェよ」
「何が気にいらない?」
怪訝な顔で、聞いてくる。
「挑発的な態度に燃えるんだろ。それとも、冷えた身体が不満なのか?」
なら、すぐに熱くしてやると、無理に己の欲望を掻き立てようとする。
「……よせ」
見ていられなくて、止めた。
この道の先に弟との再会があると思えば、アキラはきっと何だってやる。
不器用だからこそ、すべてを出し尽くさなければ叶わないと覚悟を決めているのだろう。
いばらの道を素手で掻き分け、全身血だらけになりながらも、本人だけがその痛々しさに気づかない。
弱音一つ吐かず、満足に休むこともしないまま、止まるのは死ぬ時だと言わんばかりに、先を急ぐ。
客の多くは容姿ではなく、この悲しいまでの一途さにやられたのかもしれないと、なんとはなしに思った。
「オマエのプロ根性は認めてやる。テクも充分だ。……けど、悪ィな。抱くならやっぱ、アイツがいい。つーわけで、早いとこ服着ろ。見てるだけで、寒ィんだよ」
「……おいてきた、恋人のことか?」
「……ったく、あンの、おしゃべりが」
ユーリのジジイ、後で殺すと内心で堅く誓った。
じっと見つめたまま、アキラがなおも答えを待っていた。
居心地の悪さはマックスだ。
心のやわらかい部分をさらすのは本意ではなかったが、相手のそれに触れようと思えば、このまま流すのは不可能かと、この日、何度目になるかもわからないため息に暮れた。
「……この通り、浮気しまくりのサイアクな恋人だけどな。ぶっちゃけアイツ以外、心底抱きてェとは思わねェ」
自分を見失いそうな戦闘後の昂ぶりの中で、抑えきれずに誰かを抱くことはあっても、この心が欲しがるのは、ただ一人だけだ。
「ったく、何言わせてンだ。っつーか、オレのことはいーンだよ。それよか、オマエだろ」
頭をガシガシとかき乱して、アキラをにらみつけた。
「……抱く気がないのなら、帰らせてもらう」
アキラがシャツをまとい、立ち上がる。
「用事がある時は、ホットラインを使え」
「……冷てェな。オレの下につくンだろ? もうちょい親睦を深めようとは思わねェのかよ」
脱ぎ散らかした残りの服を取り上げてしまうと、キッとキツく睨みつけてくる。
奪いにきた手を、軽くてかわした。
つかみかかられたが、ベットのスプリングを利用して、飛びのいた。
「ふざけるな……っ」
しばし、子供のようなじゃれ会いを繰り返したが、やがて埒があかないと悟ったのだろう。
苛立ちに大きく息をついたアキラが、脱いだシャツを腰に巻きつけた。
そのままの格好で出て行こうとするのを、
「待てっつってンだろ」
後頭部に枕を投げつけて、止めた。
「……なァ。オマエ、オレにだけは甘えとけ」
自分とて一杯一杯で、これ以上よけいな負担を抱え込めば自滅しかねないと、警鐘が鳴り響いたが。
「仮にもガキを救う組織の長が、傷だらけのガキを見殺しにしたンじゃ、名がすたるだろーが」
一目見て、放っておけないと思った。
何より士郎ならこういう時、自分を傷だらけにした相手だろうが何のためらいもなく情をかけ、抱きしめるだろう。
「……オマエは、何か危ねェ。限界超えて突っ走っていきそうで、怖ェんだよ。つーか、頼むからあんま、手ェかけさせンな」
こっちも限界超えて疲れてンだと、ベッドに身体を投げ出した。
慣れないリーダーという立場の他にも、あれこれ懸案事項が多過ぎて、いっそすべてを投げ出したくなることも多々あった。
短眠には慣れていたが、夜中にあの部隊がどうした、この取引に支障が出たと、何度となく叩き起こされる日々は、戦場の夜のように気が張り詰めて、休まらない。
抜くところは抜いて、うまくやるつもりだが、これ以上は抱え込めないと理性が告げるのに、独りで立つ気を張った背中を見ると声をかけずにいられないのは、昔からの悪い癖だ。
ハルトやマコト、ルイ達とも、そうやって出会い、いつの間にか、かけがえのない仲間になっていた。
「……甘える?」
意味がわからないと、アキラが首を振る。
「くだらない。もたれ合いはゴメンだ」
「……人間、ンなに強かねェ」
言い募るアキラの顔面に、奪った下着とパンツを乱暴に押しつけた。
「抜くトコ抜かねェと、そのうちホントに、ブッ壊れちまうぞ」
「だとしても、おまえに何の関係がある?」
素早く身なりを整えながら、冷たくアキラが言い放つ。
さんざん痛々しい姿を見せつけ、同情を誘っておきながら、そうくるか!?
「テメェ、この野郎……っ」
気づけば、思いきり頬を殴りつけていた。
「ムカついたら、反動で勃ってきたけどな。金輪際テメーには突っ込んでやンねェ。独り恥ずかしく身悶えさせてやっから、覚えとけ!」
ユーリやジンがここにいたら、おいおい……と苦笑しそうな言葉を吐いて、乱暴にアキラの肩を押すと、両腕で壁際に縫い止め、にらみつけた。
「……テメーが壊れたら、大事な弟はそれこそ天涯孤独だな。……え? オニーチャンよ」
「……っ」
「自分を大事にできねェヤツに、救える人間なんざ、いねェんだよ」
わかれ、バカが……と、低くつぶやきながら、アキラの長めの襟足をつかんだ。
「……オマエはよくやってる。守る者のために矢面に立つってな、大のオトコでもなかなかできるモンじゃねェ」
「……っ」
「けどな、逃げ道までちゃーんと用意できンのが、オトナのオトコってモンだ。……誰かに寄りかかれるようになれ。誰もいねェなら、とりあえずはオレでいいからよ」
直属の上司だしな、デキの悪い部下の面倒を見ンのも仕事のうちだと肩をすくめておどければ、一瞬でも気圧されていたことに気づいたアキラの顔が、ハッとしたように我に帰り、かすかに歪んだ気がした。
「……まァ、考えとけ。な?」
クシャリと黒髪を撫でて、解放してやった。
立ち尽くすアキラを置いて、シャワールームに向かう。
人に頼ることを知らないアキラには、さぞや難しい注文だろうが、差し出された手を取るか否かは最終的には自分で決めるしかない。
さて、どう転ぶかと、投げたボールの転がる先を想像しながら、熱い湯を頭から浴びて、目を閉じた。
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