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虎(士郎side)
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侵入禁止エリアの奥深く、木々に囲まれたヘリポートに爆風が鳴り響く。
轟音の中、ヘリが着陸するのを待って、リンが言うところの『虎』を生徒会役員全員で出迎えた。
軍用ヘリ並みに武装された機体が、否応なしに緊張感を高める中、三人のボディーガードらしき男達が次々と降りてきた。
周囲を確認する際、こちらに気づく。
一人が駆け寄ってくる傍らで、残り二人が背後のヘリをガードした。
見るからに組織立った動きだった。
「おまえが士郎か?」
爆音にかき消されないよう、張り上げられた声に頷いた。
「坊を降ろす前に、移動経路と保安システムについて確認したい」
黒スーツのせいで、やけに大人っぽく映るが、年は自分達とそう変わらない青年が、張り詰めた表情で聞いてくる。
大声を出しても、爆音のせいで声が届きにくい。
エンジンをかけたままなのは、輸送後すぐに飛び立つからというよりは、いつ何時何があっても対応できるよう、備えているように見えた。
悪いが信用できない。
喑にそう伝えられているようでもあった。
「宿舎までは防弾ガラス仕様のランドローバーで移動する。この周辺は侵入禁止エリアだから、一般生徒は入れない。敷地内の至るところには、隠し監視カメラも設置されている」
「武器の携帯は?」
「残念ながら、懐の銃は没収だ」
「ナイフは?」
「一般生徒の携帯は認めていない。上からは、特別扱いはしなくていいと言われている」
「……わかった」
事前に話がついていたのか、男はあっさりと頷いた。
「この敷地内で何かあったら、おまえらのボスはかなりヤバイ立場になる。それだけは覚えておいてくれ」
リンは何も言わなかったが、『虎』の安全確保は至上命題らしいと、うなずいた。
ヘリから死角になる位置を確認して、男の手を握り、握手する振りをして、小型のケースを手渡した。
本当は『虎』自身に協力を仰ぎたいところだが、好んで飼いならされてくれるとも思えない。
まずは周囲の人間と協力体制を敷いて事に臨むのが、賢明に思えた。
「発信機だ。あんた達のボスがいつも身につける物に仕込んでくれ」
あとはハルトが敷いたセキュリティーシステムが探知してくれる。
ターゲットの周囲の監視映像を、緊急の場合に限り提供しようと、こちらにしてみれば最大限の譲歩を見せたのだが、意外にも相手方の反応は鈍かった。
「……悪いが、やるならそっちでやってくれ」
「信用できないと?」
「いや、それ以前の問題だ」
男がため息の中で首を振る。
「坊は何も信じちゃいない。この世のすべてが敵だと思い込んでる。当然オレ達のことも、まるで邪魔者扱いだ。これを仕込んだのがバレてみろ、腕の一本で済めばいいが、おそらくは命ごと取られるだろ」
ゾクリと肌が泡立った。
男の瞳が底光りした。
「坊をガキ扱いするな。自分も人も傷つけるのに何のためらいもない。あれは……魔物だ」
仮にもボス相手に、嫌悪感と恐怖しか感じられない物言いだった。
「オヤジ……坊の父親が防犯のために足裏に仕込んだマイクロチップを発見した時、坊がどうしたと思う? 迷わずナイフ突き立てて、えぐり出しやがった。辺りは血の海だし、大騒動だ。その中でただ一人坊だけが獣みてーな目で周りを威圧してた。7歳のガキが、普通にイカれてんだろ」
「……すげ」
思わずつぶやいたジェイが、両手を口に当てて、身をすくめた。
「……一つ聞きたい」
ジェイを制して、男の瞳をのぞき込んだ。
「あんた達は、本気で彼を守るつもりがあるのか?」
愛情があるようには見えない。
手を抜かれて、すべてをこちらのせいにされたのではたまらなかった。
「安心しろよ」
男が昏い目をして笑う。
「命にかえても守る。……そうするしかねーんだ」
言葉に違わぬ、覚悟が見えた。
「つらい仕事だな」
思わずつぶやくと、目を見開かれた。
それから、クスッと笑う。
「あんたはやさし過ぎんだろ。そんなんで学園一つ、仕切れんのかよ?」
「さぁな」
肩をすくめた。
何しろ、まだここを引き継いでほんの数日だ。
周りが優秀なのだけが、せめてもの救いと言えた。
だが、覚悟だけなら、誰にも負けない自信があった。
「オーナーには恩がある。最大限、報いたい。相談には乗ろう。何かあったら、遠慮なく言ってくれ」
「まぁ、よろしく頼む」
男がかすかに笑って、駆け戻っていく。
ヘリの手前で何かに弾かれたように、男が地面に転がった。
ヘリに指す影がユラリと動き、上背のある細身の男が地面に降り立った。
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