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睨み合い(士郎side)
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地面に転がる男をまるで虫けらのように蹴りつけて、歩いてくる。
爆風に長めの黒髪が煽られて、阿修羅のように見えた。
思わず拳を握り、応戦の姿勢を取ってしまう。
それほどまでに、男が放つ殺気はすさまじかった。
ポケットに両手を突っ込んだまま、長いストライドで歩いてくる。
左の頬いっぱいに、斜めに走る大きな傷跡が見えた。
一目で、闇の世界を生きてきたのだとわかる、険しく禍々しい空気感。
龍之介もまた隠してなお、闇の気配の漂う男だったが、この男は自分を周囲に溶け込ませる努力そのものを放棄しているように見えた。
世界が自分に従えばいい。
否、従うのが当たり前だと考えている。
場違いに胸の奥が痛むのは、それでもなお、男の姿が龍之介と重なるせいだ。
龍之介から、すべての甘さと気怠さを消し去ったなら。
きっとこんな表情になる。
ジンに拾われ、愛を知らなければ、龍之介もまたこの男のように信じる者一人いない世界で生きていたかもしれない。
できた隙を、男は逃すことなく突いてきた。
見惚れるような拳が、鳩尾に入る。
思わず膝を折ると、
「……つまんねぇ」
ゴミを見るような目で見下ろされた。
当たり前だが、声が違う。
龍之介のような、濃密な闇を思わせる毒にも似た甘さはなく、もっとずっとハスキーで乾いた声をしていた。
この男はきっと、色のない世界で生きている。
「……目が、気にいらねぇ」
かかとで、思い切り頬を蹴りつけられた。
草むらに転がったところを、克己に抱き起こされた。
「シロちゃん……っ。いきなり蹴りつけるとか、サイテー!」
男の視線が、克己に移る。
「よせ」
「みーちゃん……っ」
駆け寄ってきた達也に熱くなった克己を預けて、立ち上がる。
「煌牙だな。生徒会長の士郎だ」
手を差し出すと、にらみつけられた。
反撃はしないが、屈しもしない。
同じ土俵に乗るつもりはないと、視線で伝えたつもりだった。
眼光の鋭さは大したものだが、獲物を前にした時の龍之介には負ける。
あの悪魔めいた声がない分、立ち向かう隙はあるように見えた。
「腕を切り落とすと言われたら、さすがに抵抗するが、この程度のじゃれあい合いなら、いつでも歓迎するぞ」
「……テメェ」
「試合形式なら、やり合ってもいい。とりあえず宿舎に案内するから、ついてきてくれ」
返事を待たずに、踵を返す。
向けた背中に焼けつくような殺気を感じたが、気づかない振りをして、ランドローバーに乗り込んだ。
達也も慌てて、運転席に滑り込んでくる。
定員オーバーなため、ガードの3人は手脚だけをひっかけて、身体は車体の外にさらしたままだ。
「動かしますね」
窓の外の景色が流れ始めた。
後部座席の煌牙はもはやすべての興味を失ったように、暮れていく景色をじっと眺めていた。
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