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雨降って地固まる? (士郎side)
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背後でドアが閉まるなり、翡翠とジェイがその場に座り込んだ。
克己と達也も無言で青白い顔をしている。
「戻るぞ」
今後どうなるのだと、天を仰ぎたい気分をこらえて言うと、
「……腰抜けた」
翡翠がうつむいたまま、小さく震える声でつぶやいた。
羞恥と屈辱のためだろう、青ざめた頬に、わずかに血色が戻ってくる。
「……やべぇ、オレもだわ」
ジェイが膝を抱えながら、引きつった顔で笑う。
「マジ、しょんべん、ちびりそーになった」
「格好悪っ」
「そりゃ、姫は直接攻撃受けてねーから言えるんだって。ありゃぜってー、人殺してんだろ? ……ヤベ、手汗すげぇわ。震え止まんねーんだけど」
普段なら人前で抱きしめさせるような翡翠ではなかったが、今回ばかりは恐怖と心細さが勝ったのだろう。
素直に、愛する恋人の温もりに身を委ねていた。
「……みどり」
ジェイが震える翡翠を包み込む。
「おまえはオレんだ。死んだって、誰にもやんねぇからな」
覚悟に彩られたジェイの言葉に、意地っ張りの仮面を外した翡翠が、すがりつくように小さく頷いた。
想い合う恋人達の温かな抱擁に、冷え切っていた場の空気がわずかにだが和む。
克己や達也と目を見交わしながら、苦笑した。
「達也、翡翠を部屋まで運んでやってくれ」
翡翠が弾かれたように顔を上げ、不安気な視線を送ってきたが、微笑んで首を振る。
今ここで自分が翡翠を背負えば、翡翠は安心かもしれないが、いらぬ嫉妬に火をつけ、せっかく和んだ恋人達の空気を壊しかねない。
翡翠は開きかけた唇を、堅く結んだ。
そう、それでいい。
永遠に届かないと、一方通行の想いに苦しんでいた頃とは違うのだ。
少々頼りなくても、ジェイは翡翠だけを見つめている。
全力で信じてやれ。
必ず応えてくれるから。
翡翠もジェイも、互いにもっと向き合い、ぶつかり合う必要がある。
揺るぎない絆を試される場面は、この先も多くあるだろう。
翡翠もいい加減、気づくべきだ。
自分を慕うのは、親兄弟に対するそれと何ら変わらない甘えなのだと。
恋愛感情の欠片もないからこそ、迷わず信じ、素直に身を委ねることができる。
壊れるまで頑張れとは言わない。
楽な道に逃げるのも、たまにならいいだろう。
だが、最後の最後、すべてを預けるのは、今、目の前にいる男のはずだ。
翡翠の出方次第で、ジェイはまだまだ育つ。
うまく導いてやれと視線で伝えながら、情けなく床に座り込むジェイの腕を取った。
「おまえはオレが背負ってやろう」
「……すんません」
無造作に肩に背負い上げ、歩き出しながら、ジェイにだけ聞こえる声で、ささやいた。
「翡翠から目を離すな。一人にする時は、必ずオレか達也に声をかけろ」
「……はい」
さすがに、しばらくの間はシュンと気落ちしていたジェイだったが、不意に何かを思いついたように、小さな声を上げた。
「士郎さん、聞きにくいんすけど……、貞操帯とか持ってたりしません?」
「……は?」
数秒間のフリーズの後、頭の中でテイソウタイなるものがようやくぼんやりと像を結ぶ。
「……あるわけがないだろう」
そしてなぜ、それを自分に聞いてくる?
おまえはオレを何だと思ってるんだ、と冷たい視線を送ったが、お気楽男はまるでめげずに、そうっすか……と残念そうに、ため息をつく。
「遠恋だってのに、キングってば余裕っすねー。オレなら心配でそれくらいしちゃうけどなぁ」
尻に貞操帯?
……世も末だ。
そもそもトイレはどうするのだと、いらぬ心配が頭をもたげ、アホの極みの思考を首を振って振り払った。
「そう言や、キングとは連絡取れてます?」
ギュッと胸の辺りが痛んだが、
「便りがないのは、元気にやっている証拠だろう」
あえて平気な振りをした。
連絡など、くれなくてもいい。
ただただ、無事でいてくれることだけを願った。
ルイやマコト、ハルトがそばについているのだから、何かあれば必ず連絡をくれると信じてもいた。
「はぁ……、あの声が懐かしいなぁ」
ぽつりと、ジェイがつぶやいた。
「中毒性あるっすよね。いい酒に酔った時みたいな、シビれて溶けて、こう……いつまでもヒタヒタ浸ってたいカンジ?」
毒のように甘い声が蘇る。
脳内を幾度も反響し、膨れ上がっていく。
ダイレクトに下半身を刺激してくれそうで、必死に打ち消そうとした時だった。
「……それはつまり、僕の声じゃ酔えないと」
いつの間にか、達也に背負われた翡翠が横にいた。
「……ケンカ売ってんの?」
「やっ、違ぇって! キングのは、うっとり、ゾクゾク。で、みどりのは、愛しくて、ビンビン!」
言っている本人が必死な分、アホさ加減がより一層、際立った。
しらーっとした空気が流れ、やがて、落胆のため息に変わる。
「ジェイってばホント、残念なコだよね」
「顔だけ見てれば、まんま、王子様みたいなのにな」
克己と達也がそろって、首を振る。
「残念って何だよっ、熱烈な愛の告白だろ? じゃあさ、おまえらはキングの声に何も感じねーわけ?」
「そりゃ、ねぇ……?」
「……ん? んー、ははっ」
「ほら見ろ。みーんな、ヤられてんじゃん。ありゃ例外中の例外、特例だろ。つーかオレ、別にあの人とヤりてーとか思ってねーし。あんなん相手にしてたら、身が持たねーっつーか」
「それ、シロちゃんの前で言っちゃう?」
「あっ、キングの相手できんのは、士郎さんだけっす!」
そんな賞賛はいらない……というより、放っておいて欲しかった。
「いや、マジで! な、みどり!」
「……僕に振んないでよ」
プイッと頬を背けられ、そんなぁ、とジェイの耳が垂れる。
「士郎さん、許してくださいっ。なぁ、みどりも機嫌直してくれよぉ!?」
「……もう、黙れ。いい加減、放り出すぞ」
わたわたと、いつまでもうるさいジェイを一喝し、ため息の中で歩を進めたのだった。
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