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誤算(龍之介side)
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「なぁ、ルイ、一緒にミッション出ねェ?」
「悪いな、オペが立て込んでるんだ。他を当たってくれ」
「なぁ、ハル、ミッション……」
「ごめ……、システム……立て直さないと」
「なぁ、マコ」
「無理。先々までミッションの予定詰めちゃってるし」
「……」
はぁ……、と腰に手を当てて、天を仰ぐ。
「あのっ、オレとなんて、どーっすか?」
「オレも、リーダーとご一緒したいです!」
わらわらと寄ってくる輩を、悪ィなと掻き分け掻き分け、何とか人垣を脱出したが。
もはや、ため息が止まらない。
傷が治れば、戦いへの飢餓感が日々募る。
反面、事務仕事は山積みだし、何よりチームを組めるメンバーがいなかった。
戦闘員なら、いるのだ。
危険度ランクの低いミッションなら、新人兵士を連れて経験を積ませるのも悪くはないだろう。
だが、問題はまったく別のところにあった。
戦闘後の飢えをどう凌ぐか。
あの高揚感にさらされたら。
見境いなく近場にいる男を食ってしまいそうだ。
食い荒らせば嘘のように引く飢えに、一般兵士を巻き込むのは本意ではない。
たとえ合意でも、後々面倒なことになるのは目に見えていた。
かといって、弊害の極力少ないメンバーには、尽く振られてしまった。
「……ったく、どーしろってンだ」
「あ、リュー」
人垣の向こうから、マコトが駆け寄ってきた。
「文句なら、アドレス横流ししたルイに言えよ」
スマホを渡され、何だと睨みつければ、いいから出ろと促された。
「……誰だよ?」
スピーカー越しに響く、息を飲む声。
それだけで、わかる。
全身に、熱い血が駆け巡る。
したり顔のマコトをにらみつけながら、足早に人気のない廊下の端を目指した。
「……よぅ」
『どうした?』
「……マコに仕組まれた」
『……そうか』
かすかな、微笑みの気配。
それだけで、たまらなくなる。
言いたいことなど山のようにある気がするのに、上手く言葉を紡げない。
もどかしく、焦れったい。
それでも確かに、つながっている。
かすかな息遣いを全力で追いかけながら、言った。
「……そっちは、相変わらずか?」
『リンさんが、虎を送って寄こした。なかなかに獰猛で、躾に苦労してる』
「ははっ、……喰われンなよ」
『喰われるつもりはないが、しばらくは噛み跡だらけになりそうだ』
「……あァ?」
『おかしな想像をするな。少しばかり、やつ当たりされてるだけだ』
「……どこ、ヤられた?」
『まぁ、全身くまなく、だな』
「……顔もかよ」
人のモンに、勝手にマーキングしやがって。
見たことのない虎に、殺意が沸いた。
「……送り返せ」
『は?』
「送り返せっつってンだ」
『リンさんが、事前にわざわざ頼み込んできた相手だぞ。……できるはずないだろう』
呆れたような物言いに、苛立ちが募る。
他の男など、気にかけるな。
おまえはオレだけ見ていればいいのだと、喉元まで出かかった言葉を何とか飲み下した。
『心配するな。虎1匹くらい、飼い慣らしてみせる』
そばにいれば笑って許してやれる暴走も、こちらを熱くしてくれる負けん気の強さも。
自分でも不思議なほど、苛立ちに拍車をかける。
「……勝手にしろ」
気づけば一方的に、通話を打ち切っていた。
「……クソッ」
壁を蹴りつけて、背中からもたれかかり、天を仰ぐ。
甘くささやけば、すぐに溶ける身体だ。
次に連絡する時には容赦なく、声で導いて堕とすと決めていた。
繰り返し妄想したせいで、渦巻く苛立ちをよそに、下半身はいきり立ち、それがまた情けなさと苛立ちに拍車をかける。
離れた恋人に、新しい人間関係ができるのは当然だ。
覚悟はしていたし、もっと余裕で見守ってやれると思っていたのだが。
自分もまだまだ子供なのだと、思い知らされる。
「リュー」
駆け寄ってきたマコトが、下から顔をのぞき込んでくる。
「……ンだよ」
「まさか、遠距離で早々にフラれちゃったとか言わないよな?」
「……っ、ありえねェから」
睨みつけると、マコトがニッと笑う。
「意地張んのもいいけどさ。伝えられる時にちゃんと伝えとかないと、後悔するぜ? ……っと、集合の時間だ。じゃあな!」
肩を叩き、スマートフォンを奪い取ったマコトが、走り去っていく。
危険と隣り合わせの道を選んだ以上、いつ終わっても悔いが残らないよう、時を凝縮して生きることを求められるのは当然だ。
会える時間、連絡を取り合える時に想いを尽さなければ、次の機会が訪れる保証などはどこにもない。
遠距離などに怯んでいる場合ではない。
意外な自分の弱さに、深く息を吐き出した。
今までの相手とは、何から何まで勝手が違う。
思えば未来を見据えたつき合いなど、ついぞした覚えがない。
みな、深入りする前に去っていった。
自分も、その時その場がよければいいと、あえて高望みはしなかった。
たった1人と定めた相手を奪われかねない恐怖も、弱い自分への落胆も、会いたい時に会えない、もどかしさも。
超えていくしかない。
今まで避け続けてきたありとあらゆる感情のツケを、ここに来て払わされるとは、思ってもみなかった。
「……ったく、やってくれンじゃねェか」
どこまでもこちらを振り回してくれる。
悔しいようでいて喜びもある、不思議な高揚感に満たされていく。
久しぶりに聞いた声は、覚悟と自信に溢れていた。
うかうかしていられないと、歩き出す。
会うたびに、士郎が悔しがるくらい、遥か先を歩いていたかった。
まずは戦場での勘と体力を取り戻すため、しばらくトレーニングルームと戦闘モジュールにこもるとユーリに言い置いて、スマートフォンの電源をオフにした。
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