アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
惑い(アキラside)
-
秘密の共有。
それが嬉しいだなんて、どうかしている。
喉を流れ落ちていく白濁を、生まれて初めて甘いと感じた。
何だ、これは……?
胸の奥が、甘く疼く。
もっと触れてほしい。
もっとあの毒のように甘い声を聞いていたい。
あの男が自分だけのものだったらいいのに……。
噂に聞く恋人とは、どんな男なのだろう?
あいつが惚れるほどの男なのか……?
……ハッとして、首を振る。
毒のように甘い声に、当てられただけだ。
身体のあちこちに残る感触も、熱も。
他の男に抱かれれば、すぐにでも消える。
自分を諌めながら、今宵のターゲットのバックグラウンドと性癖を、脳内で繰り返しなぞりながら部屋に戻る。
「……おまえ、ちょっと来い」
部屋のドアを開けた途端、チラリと視線を送ってきたドルフが、険しい顔をしてソファから身を起こした。
何に対しても面倒くさがりなこの男にしては珍しくも迅速な動きだった。
「どうした?」
腕を引かれるまま個室に入ると、後手に鍵をかけられた。
「……ん…っ」
強引に唇を割られ、舌を絡められる。
「……やっぱな。男の匂いがする」
「……っ」
腕を振りほどいて、口元を腕で覆った。
「バレバレだ。……相手はキリヒトの後釜か?」
「おまえには関係ない」
「……それ、ハヤトやカレンに言ってみろ、100パー、ブチギレんだろーが」
ギャーギャーうるせーのはごめんだと、ドルフが距離を詰めてくる。
銀色の短髪に蒼い瞳で、かつて娼館で引っ張りだこだった美少年は、今や戦場をうろつく方が遥かにしっくり来る、厳つい青年に成り果てていた。
だが、この冷たいドエスぶりがいいのだと、今なお客は引きも切らない。
義務感や正義感、何より自分のそばにいるためだけに身体を売り続ける仲間の中で、唯一ドルフだけが自らの欲望を満たすために組織に留まっている。
最も精度の高い情報をもたらす稼ぎ頭は、リーダーである自分にとっても制御し難い暴れ馬だった。
欲望の向かう矛先次第で、いつどの方向に転ぶかわからない怖さがある。
それでもなお手放せないのは、この男だけが唯一、弟を買い取った男の声を聞いているからだ。
できる限り手元に置いておきたい。
そのためなら、何でもできた。
壁際に押さえ込まれたかと思うと、膝で脚を大きく割られてしまう。
グッと急所を押さえ込まれる痛みにうめくと、普段は冷め切った蒼い瞳に、嗜虐めいた熱が浮かんだ。
「……っ」
「おまえが欲しいのは、何だ?」
「……ジュンの…情報……っ」
「なら、他は全部捨てろ」
「……わかってる…っ」
ようやく、中心を圧迫する膝が退いた。
壁に背もたれたまま、痛みの余波に荒い呼吸を繰り返す。
「……脱げ」
仕事ならいくらでも仮面を被ることができたが、この男はそれを許さない。
「おまえが早く見つけてやらねぇから、弟はきっと毎日地獄を見てる」
「……っ」
心の一番やわらかい場所を、一番傷つくやり方で、えぐられた。
「実際、五体満足で生きてると思うか? こないだ調べた娼館のガキは、手足もがれて、捨てられたってよ」
「やめろ……っ」
「現実を見ろよ。いっくら身体売ったって、あいつが返ってくるわけじゃねぇ。いい加減、虚しくなんねぇ?」
「黙れ……っ」
「まぁ、しょせんはてめぇが汚れることで、てめぇ自身が救われた気になりたいだけなんだろーけどよ。なぁ、お兄ちゃん?」
「……っ」
ズタズタに引き裂かれた心が悲鳴を上げたが、ここで自分が折れたら、弟とつながる見えない細い糸さえ途切れてしまう気がして。
「最新の情報が欲しけりゃ、咥えて乗っかって、腰振んな。まぁ、簡単にはイカせてやんねぇけどな」
ドルフが笑う。
「仕事ギリギリまで喘いどきゃ、いい具合に仕上がんだろ」
仕事道具である身体を傷つけない代わりに、心を限界ギリギリまで追い詰める。
この男に抱かれるのは、誰にそうされる以上にこたえた。
「咥える前に、教えたろ?」
集中しろと、軽く頬を叩かれた。
「……あなたのデカい……ペニスを……っ、この淫らで汚い口に……っ」
「……続きがあんだろ?」
「頂いても……いい…ですか……っ?」
別に淫らな言葉を言わされることに、今さら抵抗などなかった。
仕事だと思えば、大抵の屈辱には耐えられる。
だが、演じることを、この男はけして許さない。
弟という最もやわらかく傷つきやすい部分をえぐられると、途端にすべての心のガードが剥がれ落ちてしまう。
生身の心は際限なくどこまでもボロボロに傷ついた。
それこそがご馳走だとばかりに、ドルフが笑う。
「……美味いか?」
一気に喉の奥を勢いよく突かれ、むせ込みながら、目を閉じた。
「早く屈しちまえよ。でなきゃ永遠に終わらないぜ?」
わかっている……どこにも逃げ場などないことは。
己のプライドとジュンの情報を計りにかければ、どちらに天秤が傾くかなど、考えるまでもなく。
ヒクつく後ろを足の指で擦られ、身体が揺れた。
「こんなすぐ溶ける身体で……、よくカレンやリクを満足させてやれるよな」
「……っ」
「……足んねーだろ? もう、こっちに挿れてもらわねーと満足できねぇ、立派なメスの身体に堕とされちまってるもんな」
与えられる快感と共に、発せられる言葉は無意識にまで深く刷り込まれていく。
「ジュンが知ったら、幻滅すんだろーな。それとも、ヤツのを強請って、咥え込んでみるか?」
絶望的な未来に、目の前が真っ暗になる。
たとえジュンを買い取った相手の手がかりをつかんだとしても、この男が事実を話す保証などはどこにもないと、わかってはいた。
こうして自分に屈する適当に遊べるオモチャを手放さないために、永遠に隠し通す可能性の方が遥かに高い。
それでも関係を断ち切れないのは、自分の弱さだ。
自分だけでは弟まで辿り着く手立ても自信もないから。
縋れるものには片っ端から縋らずにはいられない。
ドルフは単にその隙をついてきたに過ぎない。
「……っ、全部、飲めよ……?」
喉の奥ではなく、あえて味わえと浅い場所で放たれた白濁が、龍之介の匂いを消し去っていく。
「……っ」
屈辱だけではない胸の痛みと喪失感に、飲み込むのを一瞬、ためらった。
「……ほら、手間かけさせんな」
アゴを持ち上げられ、鼻をつままれれば、容赦なく白濁は喉を滑り落ちていく。
「何を今さら、初めて犯されたみてーな面してんだよ?」
甘い夢は見るなと、笑われた気がした。
「止めてーなら、いつでも言え。オレは従順な奴隷にしか興味ねぇからな」
あくまで、おまえの意志で堕ちてこいと、蒼い瞳が見下ろしてくる。
無理やり跪かされる方が、逃げ場がある分、遥かに救われることを、この男は熟知しているのだ。
虚しさが心を占める。
自分が果てしなく弱くなっていく気がした。
……あと少しでいい。
ジュンを見つけるまでは、心よ壊れるなと切に願いながら、身を屈め、ドルフの足の甲に口づけ、精一杯の許しを請うた。
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
32 / 297