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仲間(士郎side)
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高熱がある時でも欠かしたことのない、早朝稽古とランニングを終えると、役員棟のキッチンに立ち、手早く雑炊を作り始めた。
持って行った土鍋が空になって返ってきたのは、予想外の展開だった。
試しに翌日、翌々日と続けてみても、土鍋は空になるし、取り立てて文句も言われない。
「また餌付け?」
克己がふわわと、眠そうにあくびしながら、席に着く。
「シロちゃんも、よくやるよね」
ダシの効いた雑炊は食堂のどんな飯より美味いと、役員連中にも好評で、いつの間にか全員の分もまとめて作るようになっていた。
「こんなの龍ちゃんにバレたら、お仕置き程度じゃ済まないよ?」
「なぜ、あいつが出てくる?」
「はぁ……。ホント、鈍感なんだから」
いいから想像してよ、と冷たい視線が返ってきた。
「自分の奥さんが他の男のために、毎日いそいそとキッチンに立つんだよ? 僕ならキレるね。下手に美味しいから、餌付け効果抜群だし」
「……っ!?」
味見のために口に含んだ雑炊を、あやうく吹き出しかけた。
誰が誰の何だって……?
「……おかしなことを言うな」
ジロリと睨みつけても、克己は悪びれる風もない。
「そんな首筋紅くしながら睨まれたって、怖くないから。遠距離恋愛のデリケートさ、ナメちゃダメだよ。下手に惚れられでもしたら、本気で拗れまくるからね」
下手に懐かせるなと言いながらも、煌牙の病状を話した時、一番ショックを受けたのは他ならない克己だった。
このまま逝かせちゃダメだ。
幸せな記憶の欠片もないまま終わるなんて、悲し過ぎる。
心が壊れるほどの絶望の果てにも、穏やかで満ち足りた幸せは訪れるんだって、教えてあげなきゃ。
振り絞るように放たれた言葉に、残りのメンバーもみなしっかりと、うなずいてくれた。
頼みのルイは、検討して返事をくれることになっている。
自分は自分でできることをしようと決めた。
その一つが料理だった。
心の籠もった料理には、力が宿る。
母の教えの正しさを、今は信じたかった。
「……はよっす」
「……はよ」
翡翠とジェイが起きてきた。
ここ数日、2人はずっと寝不足の顔をしていた。
全力で憎もうも思っていた敵が、意外な弱さをさらし、守るべき存在となった。
様々な葛藤もあるはずだ。
それでも医療モジュールの使用履歴に二人の名前があった。
皆やさしい子供ばかりだと、胸が温かくなる。
誰だって自分に余裕がなければ、人にやさしくするのは難しい。
それができるのは、心の強い者だけだ。
自分一人でできることなど、高が知れている。
だが、強い心を持つ仲間がいれば、手を携えて歩んでいける。
「行ってくる」
「行ってらっしゃい。あ、士郎さん、放課後、執務室に集合よろしくっす」
そういえば、イベントの時期が近づいていた。
「わかった」
土鍋をトレーに乗せると、一般棟に向かった。
死にかけた獣に、世界はそんなに捨てたもんじゃない、そう思えるだけの時が残されていることを、切に祈った。
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