アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
お伺い(龍之介side)
-
「リュー、ちょっといいか」
ミッションから戻ると、部屋の前にルイがいた。
戻ったことを、いち早くハルトあたりから聞かされたのだろう。
「……シャワーだけ、先浴びさせてくれ」
室内に導いて適当に座るように促すと、バトルスーツを脱ぎ落としながら、シャワーブースに向かった。
頭から熱い湯を浴びて、外界を遮断するかのように目を閉じる。
澱のようにこびりついていた様々な感情が、次第に洗い流され、気分が浮上していくのがわかる。
腰にバスタオルを巻きつけ、タオルで乱暴に髪を拭いながらシャワーブースを出ると、冷蔵庫から炭酸水のペットボトルを取り出して、一気に煽った。
「けっこう、長かったな」
普段は烏の行水のくせに、思い悩むとシャワー時間が長くなるのは、昔からの癖だ。
「……何でもお見通しかよ」
つき合いが長いのも良し悪しだと、苦笑した。
「……で? 話があンだろ」
ルイにもペットボトルを放ってやりながら、腰からソファに沈んだ。
「桜華の転入生の話は聞いてるな?」
自分でも目に見えて機嫌が降下していくのがわかった。
「……人のモンに手ェ出しやがった、大バカモンだろ?」
「手を出した?」
ピクリと、ルイの頬が震えた。
蘇るのはプライドと信念を賭けた、親友と恋人との情交の記憶だ。
その時、自分は組織の本部に向かうヘリの中で、音声だけをリアルタイムで聞いていた。
あの時の怒りと嫉妬は消えることなく、未だ記憶の深い場所に生々しく息づいている。
ルイの瞳に、後悔と罪の意識が過るのを見て、何とか溜飲を下げた。
今では自分より、むしろ士郎と仲がいいくらいのルイを、本気で疑って見ているわけではない。
「……別に、レイプされたとか裸に剥かれたとか、そういう話じゃねェ。ちょっとばっか一方的に、殴られたらしい」
男の顔にできた傷の一つや二つ、気にもならないが、事、士郎に関する限りは別だった。
「……会ったら、ブッ殺す」
「それはちょっと、無理かもな」
「……あァ?」
「そう睨むな。煌牙ってのが、その転入生の名前なんだが……、そいつな、どうやらかなり重度の心臓病らしい」
「……どーいうことだ? オマエがコッチに来た今、あそこに医者なんていねェだろーが」
ルイと目が合った。
深い色の瞳に、苦いものが込み上げる。
「……わかってて、放り込まれたわけか。ったく、どいつもこいつも、テメェのガキを何だと思ってやがる……」
手の中でペットボトルがひしゃげた。
「さっき、士郎から連絡があった」
なぜ、自分ではなくルイに?
自然、キツくなる視線に、誤解するなとルイがため息をつく。
「手術を依頼された」
……そういうことか。
それなら、直接のやり取りも納得がいくが、だからと言って不愉快なのは変わらない。
「おまえら、何かあったのか?」
逆に勘ぐられ、
「……ねェよ」
睨み返した。
「話す気ゼロか。まぁいい」
肩をすくめると、ルイは簡潔に状況を語った。
「オレが手術しなけりゃ、ヤツは近いうちに死ぬだろう。まず確実にな」
だが、成功率は1%あればいい方だと、ルイは言った。
「オレ自身はやってやりたいと思ってる。問題は失敗した場合、事と次第によっちゃ、組織に迷惑がかかるかもしれないってことだ」
身内を切り捨てるヤツは、平気で身内の死をも利用する。
そういうお家柄の、お坊ちゃんというわけだ。
「オレの一存で決められる問題でもない。リーダーとしての意見を聞かせてくれ」
「……そんなン、決まってンだろ」
バカが、と濡れたタオルを投げつけた。
「……やれよ。ケツは持ってやる」
タオルを顔面ギリギリのところでキャッチしたルイが、ニヤリと笑った。
「そう言うと思ってた」
「……あー、クソッ」
濡れた髪をガシガシと、掻き乱す。
「これでまた士郎のアホウは、ソイツにベッタリじゃねェか」
「やさしさにほだされて、虎も何だかんだ、懐いたりしてな」
「……テメェ、ケンカ売ってンのか?」
ユラリと立ち上がる。
「ケンカは売ってないが、からかってはいる。獰猛なおまえは色気倍増しで、なかなかにソソるからな」
ニヤリと笑われて、腰に巻きつけていたバスタオルを投げつけた。
視界を奪った一瞬の隙をついて、ソファに押し倒した。
「……あンまナメた口きくと、そのうち痛い目にみるぜ? 最近じゃ抱くばっかのカラダに、抱かれる快感を思い出させてやろうか」
「たまには、それもいいな」
吐息が触れるギリギリの距離で、見つめ合う。
濡れた声と視線で、しばしやり合った後、二人してブハッと吹き出した。
「……その気もねェくせして、ずいぶんと突っかかってくンじゃねェか」
「そっちこそ。それより、何か着てくれ。さすがに、おかしな気分になる」
「……ンだよ、欲求不満か?」
ハルと上手くいってないのかとからかえば、大円満だと嘘ぶかれた。
「失敗したらそれまでだが、成功した場合、術後の経過にも寄るが、一月は戻れないと思う。ハルは置いて行くつもりだ」
「……その間はオレに面倒みろって? 基本、オレから手ェ出すつもりはねェが、熱くなってる時は、わかンねェぞ」
戦闘後の熱に浮かされている時までは、責任を持てない。
「……強請られたら、抱いてやれ。一人泣かせるくらいなら、浮気された方が遥かにマシだ」
「……オマエもハルには、激甘だな」
「自覚はある」
苦笑したルイが、立ち上がった。
「虎が手術を承諾すれば、新設した医療ブースを引き継ぎ次第、ここを発つ」
連絡は取れるようにしておくから、何かあったら知らせてくれと言い置いて、ルイは部屋を出ていった。
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
37 / 297