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覚悟(龍之介side)
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「……何の用だ」
部屋を訪ねてきたアキラが、訝しげな顔で聞いてくる。
理由も事情も言わずに呼び出したのだから、無理もない。
「……オマエ、ソコ立ってみろ」
通信時はスクリーンになる、白い壁際に立たせた。
「全部脱いで、後ろを向け」
目を見開いたアキラだが、何かを覚悟したような顔で、黙って言われたことに従った。
手早く服を脱ぎ捨てると、壁に両手をついて、背を向ける。
わずかに開かれた脚から、自ら受け入れようとする意思が伝わってきた。
綺麗に盛り上がった双丘の狭間に、指を滑らせたい衝動を覚えて、舌打ちする。
ルイもそうだが、アキラも士郎と体格がよく似ているのだ。
時折どうしても、おかしな気分になる。
「……そーゆーンじゃねェんだけどな。まァ、いい」
込み上げてきそうな欲望を押し殺し、冷静に商品としての価値を測った。
襟足を隠す程度に伸びた黒髪は、適度に長さを残したまま、もう少し動きをつけてみてもいいかもしれない。
今のままの方が黒髪がフレームの役割を果たし、顔立ちの美しさは際立つが、ウイッグなら冒険するのも自由自在だ。
左右で思い切りバランスを変えて、硬質さと謎めいた色香の両面を打ち出せば、アングルによって、より多面的な表情を切り取ることもできるだろう。
背は180センチ程度。
モデルとしてはけして高い方ではなかったが、頭は小さく腰の位置も高い。
適度に鍛え上げられた身体のトータルバランスは、抜群だ。
個人的にはもう少し、全体に筋肉をつけたい気もしたが、これはこれでいいのかもしれないと、思い直す。
未だ大人の男になりきれない、しなやかで危うい身体は、やがて失われていくものだからこそ、鮮やかに人の記憶に刻まれるだろう。
コイツの売りは、この悲痛なまでに鮮やかな生き様だと、口にはせずに思う。
すべてを背負いながら、寡黙に耐えて、叶わない時はただ静かに散っていく。
そう決めている。
誰のせいにもしない。
その悲しいほどの潔さは、必ずや人の目を惹きつけずにはおかないだろう。
「……コッチ向いてみろ」
アキラが挑むように、振り返る。
その視線をしっかり受け止めながら、言った。
「……オマエ、表の世界で顔売ってこい」
「は……?」
「有名になりゃ、弟の方から近づいてきてくれるかもしンねェだろ」
「男娼が有名に? ……いったい何の冗談だ」
アキラが嘲笑う。
「確かに、お笑い種だ。けどよ、周り全部を圧倒するくれェ、オマエが光ったら、どうなる?」
視線を縫い留めたまま、近づいた。
この声が武器になるのなら、いくらでも使ってやる。
おまえの武器は何だと視線で問いながら、頬を寄せた。
「……今度は世界がオマエに平伏す番だ」
耳元で低く甘く、ささやいた。
ブルリと震えたアキラの瞳から、その瞬間、笑みが消えた。
「まずは顔を隠して売る。隠せば隠すほど暴きたくなるのが、人の性だ。……時期を見て、ベールを剥ぐ。 高みまで登り詰められるかどうかは、オマエ次第だ」
その存在ごと賭ける覚悟があるのなら、こっちも本腰を入れてバックアップしてやる。
「失敗したら闇で生きていく場所すら失うが、もとよりそういう覚悟なンだろ?」
「やる」
即答だった。
「選択の余地はない」
まぁ、そうだろうな、と苦笑した。
この圧倒的な覚悟に裏打ちされた目力は、凶悪だ。
世界がこの男の前に平伏す日が、本当に来るかもしれない……と予感した。
俄然、面白くなってきた。
「まずは何をすればいい?」
拾って放ってやったシャツを身につけながら、アキラが問う。
「……近々、オレの古巣に行って、プロフ撮影だ」
謎めいたバックグラウンドを作りたければ、業界の関係者でさえあれは誰だと声高に噂し合うようでなければダメだ。
謎が謎を呼び、もはや誰もが無視することのできない、大きな時代の流れを創る。
「大胆に、仕掛けてこうぜ」
「裏の仕事は、どうする?」
「……オマエはどうしたい?」
「弟につながるルートは、いくつあったっていい」
「だな。別に止めるつもりはねェよ。……ただ、カラダは傷つけさせるな」
「わかった」
「とりあえず、明後日までの予定はすべて空けとけ。別件でルイも連れてくから、細かい時間が決まったら連絡する。今後はあンま夜のスケジュールも詰め過ぎンなよ」
「体調管理なら、心配はいらない」
「そーじゃねェよ」
ニヤリと笑った。
「ヤり過ぎて穴が開きっぱなし、ってのは、勘弁してくれっつって話だ」
「……っ」
「……まァ、適度に抱かれて、フェロモン纏う分には、歓迎だけどよ」
「一応、意識はしておく」
からかった果ての、どこまでも真面目な返答に、苦笑した。
士郎ならば間違いなく、鉄拳が降ってくるところだ。
肩の力を抜けと言ったところで、アキラには通じないだろう。
それでも結果が出れば、すべて報われる。
「……やるからにはぜってェ、成功させるぞ」
振り上げた拳に、アキラが黙って、腕をぶつけてきた。
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