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未来(煌牙side)
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「……どけ」
「落ち着け」
「……離さねぇと、殺す!」
本気で睨みつけた。
人一人殺したところで、もはや失うものなど何もない。
死に片足突っ込んだ瞳から放たれた殺気は、凄まじいものがあったはずだが、士郎は一歩も引かなかった。
「な……っ!?」
それどころか、軽々と横抱きにされてしまう。
「坊を返してください!」
駆け寄ってきたサードを見た瞬間、虫酸が走った。
「……テメェは黙れ、二度と顔見せんな……っ」
心臓が早鐘のように脈打ち、胸をつかんだ。
「坊……!」
「こういう状況だ。彼はしばらく、生徒会で預からせてもらう。それでいいな?」
「あぁ……!? 何勝手なこと言ってやがる……!?」
「なら、ここに残るか?」
グッと言葉に詰まった。
ここを飛び出したところで、どこにも行くあてなどないのだ。
急性期の怒りが収まるにつれ、まだ終われないとの思いが破滅衝動を上回る。
……そうだ、と胸に下げたペンダントを握った。
せめて、このデータを世に出すまでは、生きている必要があった。
「……こいつと行く」
駆けつけてきたファーストとセカンドに言った。
「サードは首だ。……二度とその面、見せんじゃねーぞ……!」
歩けと、士郎の腹に拳を入れた。
硬い腹筋に、逆に拳が跳ね返される。
片や自分はどうだ?
ケンカすれば負けなしだった昔の面影など、どこにもない。
病魔に冒され、惨めに筋肉の落ちた身体を見つめ、チッと舌打ちしながら、目を背けた。
「……降ろせ。テメェで歩ける」
士郎は少し考えるような顔をしたが、不意に指先で耳の後ろに触れてきた。
「……あぁ!?」
大きくて温かい手だ。
敵意がないとわかるにつれ、硬くなっていた身体から、徐々に力が抜けていく。
「早くて弱々しくが、脈も安定しているな」
「……!! ……テメェ、どこまで知ってやがる!?」
「おそらくは、全部」
「んでだよ……っ」
同情されるくらいなら、死んだ方が遥かにマシだ。
「……降ろせ。降ろせっつってんだろーが!!」
早朝の静まり返った廊下に、ドスのきいた声が響き渡る。
だが、士郎の顔色は少しも変わらなかった。
「……見ていられないな」
「この、鉄面皮が……っ」
「暴れる元気があるのなら、手術のために取っておけ」
「……!?」
「執刀してくれる医者が見つかった。おまえは、どうしたい?」
とっさに言葉が出なかった。
言われた言葉がグルグルと脳内を駆け巡る。
切り立った崖の向こうに道はないと思っていたのに、突然ヘリから縄梯子を垂らされたようなものだ。
敵なのか味方なのかさえ、わからない。
理由も動機も不明だ。
それでも、はじめて提示された未来だった。
「可能性はゼロじゃない。賭ける価値はあると、オレは思う」
吸い込まれるような、真っ直ぐで綺麗な瞳だった。
何より、自分の世界にはついぞ縁のない、温もりがあった。
「テメェは、いったい何なんだ……?」
士郎が笑う。
「おまえが属する学園で生徒会長を務める男だ。戦う生徒の背中を支えるのが、主な仕事だな」
「……はっ、選挙演説かよ」
嘲笑うように、鼻を鳴らした。
笑ってでもいなければ、焼けつくように火照った瞳の辺りから、よけいなものが溢れてきそうで、必死にこらえながら、精一杯冷たい声を吐き出した。
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