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プロジェクト始動(士郎side)
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「龍ちゃん!?」
龍之介の姿を見つけるなり、克己が思いっきり抱きついた。
一時よりは背も伸び、ウエーブのかかった淡い茶色の髪も短くなったとはいえ、龍之介を眩しげに見上げる姿は少女にしか見えない愛らしさだ。
陶器のように白い肌が、興奮でピンクに染まっている。
こんな姿を見せられたら、克己に惚れていた頃なら黙って目を背けていただろうと苦笑した。
今は自分も克己のように素直に甘えられたらと、別の意味で胸の奥が疼いた。
周りからも次々と、お帰りなさいの声がかかる。
「もー、ビックリしたよ。いったい何しに帰ってきたわけ?」
「……ちょい、ココの設備とオマエらの力を借りたくてな」
言いながら、龍之介がアキラの背中を押して、自分の前に立たせた。
「……コイツを見て、どう思う?」
主に克己に向けて放たれた問いだった。
「どうって……、ちょっと近づきがたいほどの美形だよね」
克己が質問の意図を測りかねて、小首を傾げた。
「世に出したら、売れると思うか?」
「そりゃ、素材としては極上だけど……って、えっ、それ本気で言ってるの?」
「たりめェだろ。組織の資金源確保と、行方不明者の捜索が狙いだ」
「もうちょっと嚙み砕いて、お願いできる?」
「コイツの生き別れの弟が、有名になったニーチャン見つけて、接触を図ってくる。……それがこのプロジェクトの最終的なゴールだな」
「何それ……、闇の組織の人間なのに、顔売っちゃっていいわけ?」
「かまわねェ。……ただ、ちょいウラ事情が絡んでてな。最初は空気感だけで売り出してくつもりだ。勢いがついた辺りで顔出して、一気に登り詰める。……こンだけ素材がよけりゃ、シルエットや化粧なんかで、どーにでもなンだろ」
「それで僕に白羽の矢が立ったわけだ」
「……察しのイイヤツは、好きだぜ?」
甘く濡れた声に、克己の頬が染まる。
「もーっ、僕相手に色気振りまくの、止めてくれる?」
「……悪ィな。この声が好きなヤツが多過ぎてよ。ついサービスし過ぎちまう」
視線が流れてきて、ドクンと心臓が跳ねた。
誰がだとキツく睨みつけると、人差し指の第二関節で、龍之介が見せつけるように己の薄い下唇を撫でた。
たったその程度の動きを限りなく淫らだと感じてしまう自分に、目眩を覚えた。
あらゆる場所に触れた、唇の感触が蘇る。
「龍ちゃん……、お願いだから、そーゆーのは二人きりになってからゆっくりやってよね?」
勘のいい克己から抗議の声が上がる。
「わかってねェなァ。人前だからイイんだろ。……なァ、士郎」
底なしの甘い毒に、侵されていく。
「……っ」
ここでいきなり名前を呼ぶかと、片手で目元を覆った。
こんな溶けた表情を他人の前にさらすなど、閨での秘密を暴かれたにも等しい。
居たたまれなくて消えてしまいたいのに、龍之介の視線がそれを許さない。
痛みを感じるほどの熱を感じた。
今すぐこの場で犯してやろうか……?
あの毒のように甘い声で、嬲られている気がする。
羞恥を遥かに上回る独占欲に侵され、世界中に叫んでしまいそうだ。
この男は他の誰でもなく、自分のものなのだと。
「……とりあえず、オマエの持ってる撮影機材を借してくれ」
不意に視線をそらされて、ようやく肩で息を吐く。
「……まぁ、いいけど。体格はシロちゃんとほとんど変わらないから、とりあえず今回は、シロちゃん用に僕が作ったコスプレ衣装の中から、イメージに合うの選んだら? 補正すれば、何とかなるでしょ」
「……助かる。あと、オマエ、コイツがかぶるウィッグ、イメージ通りに切ってくンねェ?」
「オ、オレっすか!?」
ジェイが素っ頓狂な声を上げた。
「で、ガキンチョ、オマエはPCでの編集役だ」
「ガキンチョ……」
翡翠が静かな絶望を瞳に映しながら、絶句する。
「克己のフン、オマエは絵、描けるンだっけな。デフォルメして使えっかもしンねェから、撮影中、試しにいろいろ描いてみろ」
「え? あ、……はい」
達也はなぜか少し、嬉しそうだ。
フン呼ばわりに言及しなくていいのかと、他人事ながら心配になる。
「で、問題はカメラ小僧なんだが、誰かカメラ扱えるヤツはいるか?」
「それなら、シロちゃんでいいんじゃない?」
「……は?」
「いっつも撮ってもらってたけど、カメラアングルとか、ボカシとか、けっこうセンスあると思うんだよね」
それは、おまえの細かすぎる要望に逐一応えていただけだと言ってみたが、もはや誰も聞いていなかった。
「……ンじゃ、まァせいぜい、イイ絵を頼むぜ?」
肩に龍之介の手が乗せられ、それが合図だと言わんばかりに、各々が道具集めや準備に奔走し始めた。
組織の資金集め?
行方不明の弟探し?
その命運が自分のカメラの腕にかかっているのかと思うと、目眩がした。
振り返ると、アキラが立っていた。
覚悟を秘めた、胸が痛くなるほどに真っ直ぐで強い瞳に、息を呑む。
「……よろしく頼む」
差し出された手を、ためらいがちに握り返した。
乾いた手の平は、わずかにだが震えていた。
怖くても、進む。
その覚悟に、素直に打たれた。
「……こちらこそ、よろしく頼む」
複雑な思いはひとまず横に置いて、必要とされるなら、技術がないなりに全力を尽くそうと、密かに心に誓った。
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