アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
決戦の前に(士郎side)
-
射撃場の三面に白いスクリーンを張って、手術室からありったけのライトを移動した。
克己の部屋からレフ板を持って来れば、即席スタジオの完成だ。
克己がアキラのメイクを直す間、手慣らしに何枚か、並いるギャラリーを映してみた。
出来栄えに、一人密かに苦笑する。
このまま売り込めば、有名雑誌で即採用になるだろう。
自分の周りには並外れた美形がそろっているのだと、改めて思い知らされた気がした。
その中にいてさえ霞むどころか異彩を放つアキラを、フレーム越しに捕らえた。
気配を察したように、アキラがこちらを振り返る。
苛立ちや嫉妬をぶつけられるかと思いきや、負のエネルギーなど微塵も感じさせない、純度の高い闘争心と欲望に燃えた瞳と出会う。
……綺麗だ。
場にいるだけで、容赦なく視線を惹きつける。
龍之介とは、また違うベクトルのエネルギー。
「……っ」
不意にフレームに映り込んできた龍之介が、親しげにアキラの肩を抱き寄せた。
触れそうなほど耳元に頬を寄せ、何事かをささやく。
アキラが驚いたように龍之介を見つめ、ほんのわずかにだが頬を上気させた。
強い光を放つ瞳が緩むと、危うい色香が薫る。
龍之介の昏く甘い闇とアキラの眩い光が溶け合い、凝集され、融合していく。
まさに二人だけの世界の出来上がりだ。
思わず目を背けかけた瞬間、射るように自分を見つめる龍之介の瞳と、ファインダー越しに出会う。
おまえはオレのものだろうと割って入り、その腕をつかみ、唇を奪って連れ去りたい気持ちを、グッと唇を噛み締めて耐えた。
心臓を鋭いキリのようなものでグリグリと奥深くまで、えぐられるかのようだ。
向こうが百戦錬磨の参謀がつく大軍を率いる王子なら、こちらはさながら、孤立無援の息も絶え絶えの敗戦兵か。
勝ち目など欠片ほども見出せない。
挑むこと自体に意味があると、必死に己を奮い立たせ、最後のプライドにすがり気を吐く、惨めな一兵卒。
試されるたびに必死に喰らいつき、おまえといたいと叫ぶことしかできやしない。
どれだけ試してもいい。
奈落の底に突き落とすのなら、引き上げるのもまた、おまえの役目だろうと、にらみ返す。
否……、それでは足りない。
予想を超えていかなくては、あの男は燃えない。
必死に万に一つの活路を探る。
不意に、笑いが込み上げてきた。
龍之介と生きるのは、いつだってギリギリの断崖絶壁をひた歩くようなものだ。
震えるような恐怖に、だが、わずかながら高揚している自分がいた。
もはや完全に毒されているとしか思えない。
カメラを下ろし、直に見つめ合った。
琥珀色の薫り高い蒸留酒が滴るように、龍之介が笑う。
「……っ」
たったそれだけで、身動きもできないほどに酔わされ、甘い闇の底に引きずりこまれていく。
首を振り、必死に大地を踏みしめた。
いつもいつも、やられてばかりだと思うなと、自ら視線を断ち切り、背筋を伸ばて、スクリーンの前に立った。
高みの見物など、させてやるものか。
業火の最中に引きずり込んでやる。
敗戦の色濃い戦いでも、呑まれずベストを尽くせば、どんな荒野にも道は通せるはずだと、空手の試合前のように目を閉じて、しばし最高の一枚を思い描いた。
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
57 / 297