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灼熱(士郎side)
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小道具として、背もたれのある椅子を一つ、アキラに与えた。
こちらに背を向けるように、逆向きに脚を開いて椅子に座らせ、背もたれの上部で腕を組ませた。
案の定、長い脚が引き立ち、身体のラインに沿って地面へと伸びる燕尾服の裾が優美だ。
全体的に黒が占めるファインダーに、ほんのわずかにだが、さらされた色白のうなじが、ひどく艶かしく映る。
否応なしに、その下の白い肌を暴きたい欲をかきたてた。
もう少し抜けが欲しくて、克己に声をかけた。
「靴を脱がせてやってくれ」
克己とジェイが駆け寄ってきて、左右の靴下と靴を奪っていく。
大胆に割り開かれたしなやかな脚と素足に、気だるさが香る。
惹きつけられて、シャッターを切る手の動きが止まらなくなる。
しばらくして、背後の龍之介を振り返った。
早くしろと視線で促すと、背後の壁に寄りかかり、腕組みしていた龍之介がため息の中、面倒くさそうに身体を起こした。
相変わらず音もなく歩く男だ。
「……この貸しは、高くつくぜ?」
すれ違い様のつぶやきに、ゾクリと肌が泡立った。
毒のように甘い声に、得体の知れない熱が駆け巡る。
カメラを取り落とさないように、慌てて指先に力を込めた。
撮影前のわずかな時間に交わされたやり取りが、よみがえる。
手を貸せと、自ら声をかけた。
惚れているおまえ相手だからこそ引き出せる表情を撮りたいのだと。
『……別にいいぜ?』
龍之介が笑う。
『……オマエだと思って存分に攻めてやるよ」
闇よりも深く響く声。
魂ごとさらわれてしまいそうだ。
『……くれぐれもファインダーの中には入るなよ?』
『揺さぶるのに、触わる必要なんざねェよ。……士郎』
『……っ』
不意に濡れた声で名前を呼ばれて、危うく腰が砕けかけた。
『……この声とオマエの奥を溶かした指先がありゃ、アイツを煽るのなんざ、朝飯前だ』
斜めの視線を寄越したまま、肉厚の舌先が自らの指の背をねっとりとはう。
ジワリと滲んだ欲望を、
『……今からそンなんでどーする? ちゃんと撮れンのかよ?』
嬲られ、キツく睨み返せば、
『……オマエは怒った時の方が遥かに色気が増す』
芳醇な酒を口に含み、舐め転がすように笑われた。
去り際にうなじを撫でていった骨ばった指先の感覚が、鮮やかに蘇る。
「……っ」
カアッと首筋が熱くなり、ため息の中で必死に熱を散らした。
こちらの動揺に気づいているのかいないのか、視線の先の龍之介はギリギリ、フレームから外れる位置に腰を下ろすと、片膝を抱えた腕に無造作にアゴを乗せた。
斜めに見上げる視線が、アキラを射抜く。
「……熱くさせてくれンだろ?」
アキラの背中に動揺が走る。
「……なら、一番近くで見てねェとなァ?」
龍之介の場合、声そのものが凶器となる。
追い詰められるアキラの姿に、自分のそれが重なった。
世界から隔絶された二人だけの空間に連れ去られて、帰る道すら見えなくなるかのような。
瞬く間に蒸発した思考力の狭間で、凍るほどの恐怖と恍惚の灼熱に引き裂かれ、飲み込まれ、押し流されていく……。
気が狂うほど、ただ、おまえだけが欲しいのだと、すべてを忘れて叫んでしまいたかった。
キツく目を閉じて、耐えろ……と己に言い聞かせながら、震える吐息をゆるゆると吐き出した。
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