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達成感と敗北感(士郎side)
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椅子に前かがみにもたれかかったまま、アキラが静止する。
汗ばんだ首筋に黒髪が貼りつく様を最後に写し切ると、腕を下ろした。
込み上げる達成感と、それを遥かに凌駕する敗北感に、深く吐息した。
ハッとして、カメラを首に下げると、克己からタオルを奪った。
下肢が突っ張って、歩きにくかったが、気にしてなどいられない。
これ以上、アキラをさらし者にはできなかった。
人前でイカされる屈辱も、羞恥も。
身に染みて知っている。
誇り高い男がどれほどのものを失ったのか、考えるだけで胸が痛んだ。
「……悪かったな」
止められなくて。
広げたタオルを、頭から被せてやった。
……偽善だ。
止めるという選択肢など、最初からなかったくせに。
魅せられ、選ばれた優越感に浸り、アキラに己を重ね、共に堕ちた。
せめてもの償いに、ギャラリーの視線を遮るように、背後に立つ。
「……ンだよ、まるでオレが悪者みてェじゃねェか」
龍之介がボヤく。
「やり過ぎだ……とは、言えないな」
龍之介の助けがなければ、到底、あんな狂おしいほどの絵は撮れなかった。
「……保証する。オレのつたない腕でも、最高の一枚が撮れた。よく……耐えたな」
アキラの身体から、ゆるゆると力が抜けていく。
「……あのー、ちょい、外していいっすか?」
前のめりになったジェイが、気まず気に声をかけてきた。
「……僕の前で、ありえないだろ……っ」
怒っている翡翠の顔も、どことなく紅い。
「みーちゃん、ごめん……っ」
己の昂ぶりを押さえながら、達也が涙目になる。
「あれは、ねぇ。反則でしょ……。龍ちゃんの声と、アキラ君の痴態だよ?」
僕もヤバイし、と克己が苦笑して、その場にかがみ込んだ。
「色っぽくて、崩れ落ちそうで、守ってあげたいのに、虐めたくなる。ホント、凶悪……」
「ははっ、ざまァねェなァ。……ンじゃ、ちょっくら、休憩すっか」
「……っ、オレもう、マジ限界なんで! 失礼しまっす!」
前かがみになりながら、廊下に駆け出して行くジェイを、克己と達也、翡翠が、火照った表情で追いかけた。
後には龍之介とアキラ、そして自分の三人だけが残された。
ゆったりと立ち上がり、歩み寄ってきた龍之介が、タオルの上からアキラの髪をクシャリと撫でた。
「……オマエもシャワー浴びて来い。帰ってきたら、続けてPV撮影だ」
アキラがよろよろと立ち上がり、思い詰めた顔で龍之介を見上げた。
「……ンだよ?」
何が欲しいか、わかっているくせに。
アキラの顔に失望が広がった。
「……いや」
さっさと行けと、龍之介がアゴをしゃくる。
一途な視線に胸が痛んだ。
この健気さは実際、ひどくこたえる。
思わず目をそらすと、強引に肩を抱かれた。
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