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最高の舞台のために(士郎side)
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「……オマエがそーゆー思い詰めた顔する時は、大抵ヤベェんだ」
聞きたくねェなと、硬い黒髪を髪をかき上げながら、龍之介が天を仰いだ。
些細な仕草もやたら艶っぽく、いたずらに心をかき乱してくれる。
男らしい、太く筋張った首筋に視線を吸い寄せられて、目を細めた。
「おまえと彼を、ペアで撮りたい」
「……は?」
気持ちアゴを持ち上げたまま、視線だけが斜めに降ってきた。
「……ちょい待てや。オレぁ、映らねェぞ」
闇に沈む組織の仮にもドンが、世間に顔をさらしてどうするのだと、心底呆れ顔でボヤかれた。
「当然おまえが映ってる部分は、後から翡翠に編集で消させるさ」
「意味わかんねェぞ、コラ。だったら映す必要……」
「おまえがいるだけで」
みなまで言わせず、言葉を重ねた。
「彼は別人のように、いい表情をする」
「……そんなン、知るかよ」
歯切れの悪い切り返しは、同感だと頷いたに等しい。
「他に案があるのなら、出せ。ないのなら、素直に折れろ」
二択を迫れば、
「ンとに、テメェは……、いちいちコッチの想像のナナメ上を行きやがる」
深いため息の中、どこか愉快そうに笑われた。
「……わかった。乗ってやるよ」
ホッとするのと同時に、元旦の朝の冷気に触れた瞬間のように、身も心も凛と引き締まる。
本当の闘いはこれからだ。
「……で、カメラマンさんよ。オレぁ、どうすりゃいい?」
止めろ、まだ引き返せると、早くも保身が暴れ出す。
100人いたら100人全員が、何をバカなと、呆れるだろう。
これが最良の道だとも思わなかった。
だが、思いつく限り、最高の絵にたどり着く、唯一無二の道だと信じている。
私利私欲は捨て置いて、今は与えられたこの仕事に全霊を尽くしたかった。
男なら。
最高の舞台を用意されて、燃えないはずがない。
覚悟を決めて、言った。
「テーマは、長く離れ離れになる恋人達の、最後の逢瀬だ。見る者がスクリーンには映らないおまえの不在を強く意識するような絵を撮りたい」
沈んでいく夕陽のように、惜しみながらも甘く切なく終わっていく。
追憶の中で永遠に色褪せない、恋人達の時を切り取りたい。
「……ンだ、そりゃ」
龍之介の眉がヒクリと跳ねた。
「……さすがに、笑えねェな。やさしいのも憐れみ深いのも度が過ぎりゃ、ただ滑稽なだけだ」
今すぐ引けと、黒曜石の瞳が威嚇してきたが、こちらも当然引くつもりなどない。
「自信がないのか?」
煽ってやれば、冷めた瞳にジワリと熱が宿る。
「誰より愛しい相手だと思って、彼の手を引け。抱きしめて、その瞳に自分を映せ。……手を抜くのなら、今後一切、この件に関して協力はしない」
しばしいのちを取り合うかのように見つめ合った。
龍之介が笑う。
「……どうなっても知らねェからな」
背を向けた龍之介が、苛立たしげに近くの椅子を蹴りつけた。
それを機に、事の推移を見守り、静まり返っていた周囲の時が動き出す。
「みんな、集まってくれ。テーマは決まったが、どう撮るかの意見が欲しい」
ホワイトボードを持ち込んでペンを手に取ると、一人一人に意見を求めた。
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