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仲間(士郎side)
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「具体的にどう撮るか、意見を募りたい」
「んー、まずは距離感だよね。アキラ君の場合、全身のバランスと立ち姿の綺麗さがハンパないから、アップは写真に任せて、PVは全面的に引いて映したら?」
「いーんじゃね? 高級志向のブランドほど、顔の造作は二の次だとか言うしな。……あ、うちの母ちゃん、割と有名どころの元モデルなんすよ。オレがデキて、辞めたらしーんだけど」
「……その情報、今いる?」
翡翠の冷たい視線に、ジェイが慌てて脱線した話を戻しにかかった。
「顔の造作より面構え、瞳の色より眼差し、ってね。世に出るヤツはみんな、独特の空気感っつーかオーラがあるから、すぐわかるって言ってた。なんで、そーゆーのが画面から伝わるように撮ればイイんじゃないっすかね」
「具体的には?」
「……下手に創り込まなくてもいいと思う。必要性も感じないし」
翡翠の視線を追い、アキラの美貌を前に、確かに、と皆そろって頷いた。
「ただ彼の場合、使い難さで相殺かな」
無名の新人が素顔をさらすことはおろか、他者との共演も撮影に関する口出しも一切がNG。
売り出すにあたって、どこまでも完全な秘密主義を貫くなど、狂気の沙汰だ。
この圧倒的な使い難さをクリアして余りある魅力を見せつけなければ、その後の展望は開けない。
辺りを重苦しい空気が覆っていく。
「でもさ、簡単には手が届かないからこそ、人は憧れるんじゃないかな」
ミステリアスな陰はけしてマイナスにはならないと、克己が言った。
「肝心なのは、下手に焦らないこと。逆境の中でも、高嶺の花であり続けることだと思うよ」
ちょっと我慢が必要だけど、遅咲きの花ほど、きっと忘れ得ぬ感動を誘うと思うから、と自信をのぞかせる。
数々の逆境を乗り越えて今の幸せを手にした克己の言葉は重い。
昔より遥かに大人っぽく綺麗に笑う幼馴染を、わずかな寂しさと溢れんばかりの誇らしさの中で、眩しく見つめた。
そんな話し合いの中、主役であるアキラはどこか居心地悪そうに、ただ黙って耳を傾けていた。
己の魅力を熟知しているようでいながら、己の価値を誰より低く見積もっているダイヤの原石が、いつかこんな間に合わせのスタジオやド素人のカメラマンではなく、世界を震わせる才能たちと出会えるように。
精一杯、背中を押してやりたいと思った。
「それはそーと、仕上げの映像はセピアやモノトーンで仕上げるなんてどう? アキラ君の張り詰めて切ない雰囲気に、よく合うと思うんだけど」
「いーな、それ。身につけるのも、白シャツと細身の黒パンツだけにして」
「うんうん」
「足元はいっそさっきみたく、素足とかがいいんじゃね?」
「光と風で空気感を演出するカンジで」
克己とジェイから次々上がる具体案を、ホワイトボードに書き連ねていく。
「ねぇ、引きで撮るならさ」
克己が不意に、目を輝かせた。
「正面から映すのもアリだよね? 顔バレが心配なら、手の平で隠すとかサングラスをかけてもいいし」
見えそうで見えない。
届いたと思ったら、儚く引き裂かれていく、秘められた恋のイメージ……か。
「ストーリー仕立てにするなら、回しっ放しの方が雰囲気出るんじゃね?」
多大な労力を強いられる翡翠は終始難しい顔をしていたが、盛り上がる二人は聞いてなどいなかった。
「龍之介さんのピアノとか、バックミュージックに流れたら……やべぇ、興奮してきたっ」
「いーね! もういっそ、プライベートビーチとか貸し切って、暮れゆく太陽を背に撮影したいんだけど!」
いったいどこにそんな時間と費用があるのだと苦笑すれば、ジェイがくーっと拳を握りしめながら、うめく。
「オレも翡翠と、PV撮りてぇー!」
「……どうしてこうもバカなんだか」
雄叫びを上げるジェイに、翡翠が深いため息をつく。
「ひでぇ!」
「アキラ、君も何か意見があれば、遠慮なく言ってくれないか」
「……なぜ」
「ん?」
「なぜ、こんな親身になってくれるんだ……?」
独りで立つのが当たり前のアキラには、初対面の自分達が懸命になる理由がまるで理解できないのだろう。
嬉しさよりも戸惑いが、安堵よりも不信が勝るのも、仕方がないのかもしれない。
「龍之介に頼まれた。それだけで、オレ達には全力を尽くす充分な理由になる」
いつの間にか大人しくなった克己達が、黙って静かに頷いた。
ここにいる全員が、龍之介に救われた過去を持つ。
時に、壊れたかけた心を。
時に、ズタズタに引き裂かれた身体を。
感謝しても、しきれない。
苦しい時、差し伸べられた手の温もりを覚えている。
いつか自分も、傷ついた誰かの救いになろう。
受けた恩は返す。
そう心に決めて、生きてきた。
「気にすることはない。みんな望んでやっていることだ」
「そーだよ。めっちゃ楽しいし!」
「祭り気分で乗っかって悪いけど、マジ、いい気分転換になってんだ」
克己やジェイの言葉に、達也は微笑みの中で黙って頷き、翡翠も異は唱えない。
納得した風ではなかったが、少しだけアキラの肩の力が抜けたように見えた。
「意見を出し尽くしたところで、時間もないし、そろそろ撮るか」
「あ、アキラ君に似合いそうなサングラス持ってくるから、5分だけ待って!」
克己が勢いよく、駆け出していく。
龍之介を見れば、パンツのポケットに手を突っ込んだまま、壁にもたれ、相変わらずじっと目を閉じていた。
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