アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
面倒(龍之介side)
-
自分が持ち込んだ面倒事に、嫌な顔一つせず前向きに議論を重ねる士郎達の輪から離れた場所で、一人冷えた気持ちを持て余していた。
怒りと屈辱、闘争心がグチャグチャに混ざり合い、うまい具合に落としどころが見つからない。
自分はさんざん士郎を弄ぶくせに、いざ士郎から他人と恋人を演じろと言われれば、ヘソを曲げる。
……まるで子供だ。
我ながら、ひどく呆れた。
そんな自分を士郎は、やる時はやる男だと言い切った。
無様な姿をさらすくらいなら、確実に死ねる。
無言のプレッシャーがのしかかる。
涼しい顔をして、とんでもないムチャ振りをしてくれたものだ。
自分だって苦しいくせに。
嫉妬で身も心も焼き尽くす程度には、惚れさせた自信があった。
だが、やせ我慢こそが男の美学だと本気で信じて疑わない男は、どこまでもストイックに耐えようとする。
挑まれれば受けないわけにはいかない。
苛立ちの中で燃立つものもある。
やるのなら、当然本気でやる。
虚像でも何でも、その瞬間だけは本気でアキラに惚れ込もうとしなければ、それらしく手を引くことなどできはしない。
自分に強く暗示をかけた。
諜報員が訓練で行う、自己催眠の一種だ。
下手に強くかかり過ぎれば、帰ってこられなくなる可能性もある。
精神を無理やりねじ曲げるのだ、反動や副作用も大きい。
本当にそこまでする必要があるのかと問われれば、答えはきっと否だろう。
適当に誤魔化すこともできるのだろうが、今さら止まれる気もしなかった。
会いたい一心で突っ走ってみれば、案外、面倒なことになった。
心の中で、苦笑する。
仮に戻ってこられなくなったところで、あいつならどうにかするだろうと、結局はすべてを士郎に委ねた。
自分は、ただ飛ぶ。
不確定な未来に向けて。
目を閉じて、自ら催眠の甘い霧の中に身を投げた。
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
67 / 297