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遠い(士郎side)
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歩いてくる龍之介に、違和感を覚えた。
声をかけようとして、息を呑む。
その瞳は真っ直ぐ、アキラだけを映していた。
自分の横を素通りし、アキラの手を取り、強引に引き寄せる。
「……行くぞ」
幾度となく焼き尽くされる覚悟で受け止めてきた熱量だからこそ、よくわかる。
その瞳に燃え立つのは、紛れもない恋心だ。
……何があった?
愕然とした。
到底、演技だとは思えない。
今の今まであった自信が揺らぎ、音を立て、跡形もなく崩れていく。
……心変わりした?
まさか、こんな短期間に?
……ありえない。
「……グズグズするな。回せ」
「……っ」
冷ややかな視線に射抜かれて、ビデオカメラを構える手が、震えた。
録画の赤いランプが灯ると、龍之介が熱い腕でアキラを抱きしめた。
奪うような口づけに、強張っていたアキラの身体が溶かされ、甘く香り立ち、濡れていく。
二人の背後に、燃え盛る真っ紅な夕陽が見える気がした。
「……行くな」
吐息のような声で、アキラが言った。
「あンま、かわいいコト、言うンじゃねェよ。……離したくなくなンだろ?」
濃密な闇を思わせる、毒のように甘い声が、今はひどく遠く響いた。
アキラが眩しげに目を伏せる。
「離さなければいい……」
「……バカが」
皮肉気に、それでいて愛しくてたまらないと言いたげに、龍之介が笑う。
「……っ」
自分の大好きな笑い方。
想いを重ねてからずっと、その笑顔は自分だけのものだと信じていた。
先程までの余裕や正義感などは、一瞬にして消え失せた。
後にはドロドロとした、見るもおぞましい嫉妬ばかりが残る。
自分はいったいどこをどう間違ったのかと、焦りと恐怖の中で自問自答を繰り返す。
普段はふざけた態度の龍之介が頑なに提案を拒んだのが、最終通告だったのだ。
人には誰しも、ここまでは許せるがこれ以上は許容できない、我慢の限界というものが存在する。
自分はきっと、調子に乗ってその線を踏み超えた。
……愚かだった。
自分達にタブーはないと、盲目に信じた。
できるのなら、一時間前の自分にこの未来を教えてやりたかった。
指先も心も、見る間に体温を失っていく。
こんなにも……好きで。
今さら、どう生きていったらいい?
……龍之介のいない世界で。
熱い塊がこみ上げてくる。
叫び出してしまいそうだ。
その大きな身体を揺さぶり自分を見ろと、いっそ泣き叫んで、すがりたかった。
……そんな風に、大切そうに抱くな。
熱を煽るように触れるな。
頼むから、行かないで……。
おまえを失ったら。
明日さえ見えなくなる。
なのに、目の前の二人が、どうにも綺麗過ぎて。
胸が痛くなるほどの愛しさと切なさに焼かれて、今いる場所を動くことさえままならない。
もはや、この絵を映し切ることだけが自分の存在意義のすべてだと言わんばかりに、心をズタズタに切り刻まれながら、撮り続けた。
愛しい男が自分ではない男を愛する姿を……。
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