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ありがとう(アキラside)
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いったい、何が起こった?
ほんの一瞬前まで恋人に向けられていたはずの熱量を、ヒシヒシと肌で感じた。
どれほど、恋い焦がれたろう?
生まれて初めての想いは、気づいてしまえば燃え上がるように勢いよく火を噴いた。
触れたくて、近づきたくて……食い尽くされたくて。
この想いが届くのなら、もう本当にどうなってもかまわないとさえ思ってしまう。
生きる理由のすべてだった弟のことさえ、時折意識から抜け落ちるほどに。
龍之介しか見えなくなる。
これが恋だと気づいた時にはすでに遅く、相手にはただ一人と定めた恋人がいた。
けして派手ではないが、同じ男の自分の目から見ても、惚れ惚れとするような凛とした魂を持つ男だ。
ストイックで地にしっかり足がついていて。
仲間思いで、清廉な魂を宿している。
弱い者を本能的に守ろうとする。
ほんのわずかに空気が緩む程度のかすかな微笑みに、涙が出そうなほどの安堵を覚えた。
それでいて、龍之介とやり合う姿は、互いが互いでなければならないと求め合う、張り詰めた一対の弓と弦のようで、鮮やかに躍動する姿に、いつだって敗北感と感動を同時に覚えたものだ。
自分が分け入る隙などありはしない。
きっと永遠に届かないと、最初からわかっていた。
それでも追いかけたのは、こんな自分でも誰かを愛せたことが嬉しくて。
ただ知って欲しかったからだ。
自分がこの世に生まれ、龍之介という男を愛したことを。
……それだけでいい。
そう、思っていたのに。
なぜ、こんなことになった?
喜びよりも戸惑いの方が遥かに強い。
どうしたらいいか、わからなかった。
それでも口づけてしまえば、食まれた唇から、熱い想いが流れ込んでくる。
「……っ」
昂ぶった龍之介の下肢を押しつけられて、泣きそうになる。
……もう、すべて終わってもかまわない。
この先何があっても耐え抜いていける。
溢れ出る涙が頬を伝った。
指先でやさしく拭われて、涙を吸われた。
くすぐったくて笑うと、もっと寄越せと、強引な舌が追いかけてくる。
「……逃げンな」
甘く腰に響く声。
「……アキラ」
「……っ」
自分の名前が急にキラキラと輝き出す。
どうしよう……、どうしたらいい……?
こんなにも好きで。
熱い想いが溢れそうになる傍で、思う。
……もう、充分だと。
自分ばかりがこんなに幸せになっていいはずがない。
今もこの地上のどこかで生きているはずの弟に対する、限りない愛情と罪悪感が蘇る。
龍之介の胸を、そっと押した。
「……行ってくれ」
これ以上、触れ合っていたら。
本当に離せなくなる。
演技など忘れて、すがりついてしまうから。
龍之介の瞳に苛立ちと怒り、胸をえぐるような慟哭が火を噴いた。
嬉しくて、泣くように微笑んだ。
龍之介が選んだのが、士郎でよかった。
自分には龍之介一人を選べないから。
少なくとも今は、弟の手を取ることしかできない。
ありがとう……と誰にともなく、つぶやいた。
この瞬間の奇跡を糧に、自分は歩いていける。
だから、龍之介。
おまえは彼のもとに帰れ。
今にも崩れ落ちそうな顔をしながら、必死に立ち、カメラを構える、真に愛しい男のもとへ。
自ら背を向けた。
頬を伝う涙が清々しい。
弟を探し出して、その傷を癒すことができたなら。
その時はまた、こんな忘れえぬ恋ができたらいい。
心の底から、そう思った。
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