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幸福(士郎side)
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背後から足音が近づいてきて、心臓が跳ねた。
期待するなと重い身体を前に進めることだけに意識を集中させる。
足音がすぐ背後まで迫った瞬間、首に腕が回された。
「……ったく、オマエには参る……」
底なしに甘く苦い吐息が降ってきた。
追いかけて来てくれた事実に胸が詰まり、とっさに言葉が出なかった。
ただ、回された腕をつかみ、渾身の力を込めて握り返す。
「……フラフラ歩いてンじゃねェよ。オラ、捕まれ」
言うなり、横抱きに抱え上げられた。
「な……っ、降ろせ……っ」
ズカズカと歩き出す龍之介に、自分で歩けると抗議したが、
「……るせェ。どンだけ譲ってると思ってる?」
底冷えのする声と視線に、口をつぐんだ。
「……すまない」
「マジで、この貸しは高くつくからな?」
「……覚悟しておく」
何をさせられるかは考えないでおいた。
女子のように横抱きにされる屈辱にも、この際、目をつむろう。
追ってきてくれた。
その事実だけで、今はもう何もかもがどうでもいいことのように思えた。
今さらながらに別れの恐怖が蘇り、震え、深い吐息をつく。
「……バカが」
ぶっきら棒な物言いに、やさしさが透けて見えた。
「それは、こっちのセリフだ」
言い返した声が、小さく震えた。
急いでいるはずなのに幸せで、この廊下が永遠に続けばいいのにと、心から願った。
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