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孤高な獣(煌牙side)
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ドアが開く気配に、一瞬にして目が覚めた。
眠りが浅いのは、昔からだ。
いくら組の配下の見張りが部屋の周りを夜通し警備していようと、絶対はない。
最後の最後に頼れるのは自分だけだと、思い知らされて育った。
闇討ちを真似た父からの容赦ない『教え』を幼い頃から繰り返し受けた結果、眠りは安らぎではなく、最も無防備で警戒すべき時間として刷り込まれた。
あえて眠っている振りを装い、闇の中で目をこらした。
気配は一人ではなかった。
二人のうち一人は、ここ数日、つきまとわれて迷惑している士郎のものだ。
もう一人は……。
溢れる殺気に、全身の皮膚が張り詰めた。
士郎が連れている時点で、もはや一人しか思い至らない。
コクリと情けなく喉が鳴り、心臓が早鐘のように鳴り響いた。
どう足掻いても敵わない相手からの殺気は、恐怖以外の何物でもない。
生きたいと、心が叫ぶ。
戦うしかないと拳を握りしめた瞬間、温もりが隣にすべり込んできた。
「……!?」
「起こして、すまない。こいつの殺気も、無視していい。何もさせない。……安心して眠れ」
「……おい。ソイツがオマエに手ェ出しやがったら、さすがにキレんぞ。譲ンのは、添い寝までだ。……ソコんトコよーく、覚えとけよ?」
「……ありえない。部屋に戻って、おまえもゆっくり休め」
「……あァ? 冗談だろ」
龍之介はカーテンの隙間からわずかに差し込む月明かりの中、ベッドサイドに椅子を移動させると、ドッカリと腰かけた。
「……脚が冷てェ。……温めてやるよ」
闇に溶ける、毒のように甘い声に、士郎の身体がビクッと跳ねた。
「こら、脚を入れるな……っ、どこを触ってる!?」
「……見えねェから、わかンねェ。……ドコだろうなァ?」
「 ……ん…っ」
聞いていると、ひたすら落ち着かない気分にさせられる。
壮絶に甘い男の声と、刻一刻、乱れていく士郎の吐息。
自分を無視して盛り上がる二人に唖然とした挙句、途方もない怒りがこみ上げてきた。
「……てめぇら、ざけんな……っ」
「……いたのかよ? 悪ィな、気づかなかった」
「……ブッ殺す……!」
「煌牙、落ち着け」
不意に抱きしめられて、カッとした。
手当たり次第に拳を埋め込むと、士郎が低くうめいた。
龍之介が喉の奥で笑った。
「……さんざんヤリまくったからな。ソイツは今、歩くのもやっとの状態だ。やさしくしてやれ」
「……っ、よけいなことを言うなっ」
伝わってくる体温が途端に淫らなものに感じられて、苛立ちだけではない、何とも落ち着かない種類の熱が押し寄せてくる。
「離せ……っ」
「ほら、……離してやれよ。今の自分はメスのフェロモン出しまくりだって、いい加減気づけ」
当てられるソイツがかわいそうだと、龍之介が笑う。
ゾワッと全身が泡立った。
同時に触れ合う士郎の体温もまた、一瞬にして上がったのがわかった。
「おまえはもう……本当に……黙れ」
羞恥で消え入りそうな士郎の吐息が、首筋に触れた。
ためらいがちに腕の力を抜いた士郎が、すぐそばからうかがうようにこちらを見つめてくる。
気まずさは頂点に達し、舌打ちの中で背を向けた。
戸惑いながらも、士郎が背中をぶつけてきた。
「……っ」
いったいおまえは何なんだと、叫び出しそうになる。
途方もない苛立ちの向こうに隠れた、見慣れぬ感情正体に気づきたくなくて、必死に身体を固くした。
だが温もりは容赦なく、触れた皮膚を通して流れ込んでくる。
人は緊張状態を、そう長くは維持できない生き物だ。
ふと気を抜くと、温もりを受け入れている自分がいる。
これが当たり前になったらと思うと、叫び出しそうなほどの恐怖に襲われた。
……触れるな。
……オレの中に入ってくるな。
独りで立てる。
誰の温もりも必要としない孤高な獣でいたいと、繰り返し夜の闇に吠え続けた。
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