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預ける(煌牙side)
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「……なァ、オマエ、なかなか面白ェコトやってンな」
「……?」
「パッと見、バラバラに買ってるみてェに見えるけどよ。一つのコマが倒れると、波及しまくって、相当な被害出ンだろ、コレ」
嫌な予感がして、ベッドから飛び降りた。
パソコンを奪えば、スクリーンには見覚えのある株式画面のグラフが並んでいる。
「……てめぇ……っ」
「目眩しかけたって、わかるヤツにはわかっちまうモンだぜ。親の後ろ盾ブッ潰して、復讐でもするつもりかよ?」
仮に分析されたとしても、答えが出るのは事が遂行された後だろうと予測していただけに、目の前が暗くなる。
「株はガキの頃から、知り合いの隠し口座でずっと運用してきたからな。何気に得意だ」
ニヤリと龍之介が笑う。
「あー、で、コレな。ココの四半期決算、見たか? で、ココとココ、極めつけがコレだ」
関連会社の画面を、次々切り替えていく。
「確かにメインの業績自体は悪かねェが、遅くとも再来年には赤字転落だろ。もともと危ねェよ。揺すンなくても、そのうち傾くだろ」
そのうちでは遅いから、手を下すのだ。
自分が滅びた後、のうのうと強欲ジジイだけを生き延びさせてなるものか。
死よりも凄まじい地獄を見せてやらなければ気が済まない。
「テメェの住処をテメェで炎上させるつもりかよ。……まァ、好きにすりゃいいけどな」
龍之介がパソコンを閉じた。
「……壊して、憂さ晴らしか。死んでくヤツは、気楽でいいな」
龍之介のつぶやきに、ヒクリと頬が引きつった。
「力なんざ、どう利用するかが腕の見せ所だろ。ガキじゃねェんだから、もうちょいよく考えろ」
眉を上げ、面白がるような視線を送ってくる。
「……バカにしやがって」
「バカにしてるっつーか、信用できるヤツに預けりゃいいのにと思ってよ。テメェが死んだら、火ィつけてもらう。生き延びたンなら、せっかくある力はテメェの基盤として利用しなきゃ損だろ」
……信用できる相手など、どこにもいない。
こいつはそれをわかった上で、言っている。
悔しさに、握った拳が震えた。
「……何なら、預かってやろうか?」
ニヤリと龍之介が笑った。
すべてを暴かれた今、得た情報を利用して荒稼ぎすることだってできたはずだ。
「そんなん、てめぇにいったい何の得がある……?」
「……ねェな。けど、面白ろそうだ」
濃密な闇の気配が香り立つ。
修羅場さえ、こうして楽しみながら超えてきたのだろう。
「どーせなら賭けに勝って、テメェの手で憎んでるヤツらを踏み潰して、その力ごと取り込んだ方が面白ェだろ。その方がテメェらしいしよ。……カラダさえよくなりゃ、拳でヤり合うのも悪かねェ」
「……っ」
なぜこの男から目をそらせないのか。
面白おかしく遊ばれているだけだと思うのに、浮き立つ自分のバカさ加減に心底呆れながらも、気づけば抗えない力に引き寄せられるように、うなづいていた。
龍之介の手が不意に伸びてきて、胸元のチェーンを引きちぎる。
「……何すんだ……っ」
「……わかりやす過ぎンだろ。もーちょい隠せよ、お坊ちゃん?」
奪ったペンダントを手の中で弾ませると、己の腰のポケットにスルリと滑りこませてしまう。
「返せ……っ」
「ほら、興奮すンな。心臓によくねェぞ」
肩を押さえられ、遠心力で身体を反転させられ、背後から抱きしめられた。
「……人は簡単に死ぬ」
耳元で、毒のように甘い声がささやいた。
「だからよ、テメェはとりあえず、生きられるだけ生きろ」
「……っ」
命そのものを抱きしめられている気がした。
こんな敵の手の中で、狂ってしまったとしか思えない。
それでも、止まらなかった。
溢れたものが、頬を流れ落ちていく。
「くっそ……っ」
目元を、大きな手の平で覆われた。
包み込むような温かさに、我慢するなと言われた気がした。
どうせ自分一人が折れたところで、この男は少しも揺らがない。
それが逆に救いだった。
もう、どうにでも崩れてしまえ。
意地もプライドも、どうだっていい。
胸の奥で溜まりに溜まったものを、すべて吐き出してしまいたい衝動に負けて、声が枯れるほど泣き叫んだ。
疲れてぐったりするまで、龍之介の腕が緩むことはなかった。
抱き上げられ、深く寝入った士郎の横に寝かされても、もはや抗う気さえ起こらない。
ただ、泥のように深く眠りたかった。
手足が冷たくて、そばにある温もりに手を伸ばしかけて、ハッとした。
「オレもコイツも、ガキの面倒見ンのは慣れてンだ。……今夜だけは許してやる」
まるっきり子供扱いだ。
不思議とそれが不快ではなかった。
自分に向けられる恐怖以外の関心には、慣れていない。
士郎といい龍之介といい、イカれ加減でいえば自分の遥かに上を行くのではないかと呆れながら、温もりに寄り添い、襲い来る睡魔に負けて、目を閉じた。
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