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拒絶(士郎side)
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部屋に入った瞬間、ジェイに気づいた煌牙の瞳に、殺気が過る。
「……そいつを今すぐ、外に出せ」
「あー、そう言わずにちょっと、話さねぇ?」
ジェイが土鍋を机の上に置きながら、困ったように笑った。
間髪置かず、投げつけられた枕を、ジェイが持ち前の反射神経で、危うくかわした。
「……ヘラヘラ、気色悪ぃんだよ。とっとと、うせろ……!」
ハスキーボイスが低くかすれ、冷たい怒気を孕む。
ジェイは引きつった笑みを浮かべると、とっさに拾い上げた枕を胸の前でギュッと抱えた。
「士郎さん、やっぱ、怖ぇっす……っ」
ううっ、とブルっているジェイと、殺気を放ちまくる煌牙。
もはや、どっちもどっちだと、深くため息をついた。
「……とにかく、食え」
テーブルの上の土鍋に手を伸ばしたが、
「いらねぇ」
断固とした拒否に、土鍋の蓋を戻して、振り返る。
「体調でも悪いのか?」
「……そいつの触ったもんなんざ、食えるかよ」
「それって、士郎さんの触ったもんなら、食えるってことだよな?」
驚いたように口を挟んできたジェイを、煌牙がもはや人でも殺しそうな目で睨んだ。
「……すげぇや。さすがは猛獣使い!」
気圧されながらも、言いたいことはしっかり言う辺り、ジェイもなかなかに肝が据わっている。
何だそれはと、呆れたように目をやれば、
「龍之介さんやこいつを飼いならせるのなんて、マジ士郎さんだけっすよ!」
買いかぶりすぎだと、苦笑した。
実際のところ、どちらも完全に制御不能である。
「……クソが」
猛獣が、うなった。
「自覚あんだろ? 少なくとも士郎さんは、おまえのテリトリーの内側にいるって」
「……勝手に話作んな……っ」
「自覚ねーのかよ。向ける視線がこんだけ違えば、誰だって気づくっての」
「……言ってみろ。何が違う……?」
「……っ、全然違ぇだろーが。オレに向けんのは、底冷えするよーな見てんのもゾッとくる眼なのに、士郎さん見る時は、まんま思春期の尖ったガキみてーに、構ってくれオーラ出しまくりだろ」
「……っ!?」
煌牙の瞳が屈辱の奥で、かすかに揺れた。
思わず煌牙に視線を向ければ、窮地に追い込まれた獣のギラつく瞳とぶつかった。
本当なら、どれほど嬉しいか。
「……違ぇ……っ」
シーツをつかむ煌牙の指先に、力がこもった。
全力の否定に、混乱が透けて見えた。
甘えることを知らない傷だらけの獣の硬そうな髪を、不意にくしゃくしゃに撫でてやりたい衝動にかられ、拳を握った。
「……目の前で毒味してやるから、食え。いいな?」
「……命令すんな」
「命令じゃない。頼んでるだけだ」
煌牙はベッドベッドに身体を預けると、ふいっと窓の方を向いた。
短いつき合いの中で、いくつか気づいたことがある。
否定しないのは、煌牙の場合、肯定に等しい。
好きにしていいと解釈して、雑炊を皿によそい、スプーンを添えると、ベッドサイドまで持って行った。
煌牙の視線が突き刺さる。
まんべんなくかき混ぜて、一口含み、飲み下す。
黙って、皿とスプーンを手渡すと、煌牙も黙って受け取った。
「……え、間接チュー……?」
凍てつく視線に、ジェイが呑まれたように、黙り込む。
「……食器に毒を塗られて殺されかけたことがあるそうだ」
低く告げれば、信じられないと言いたげに、ジェイが目を見開いた。
……住む世界が違う。
きっと、見えている景色さえ。
それでも、他人の瞳に違いが映るくらいには変化が見えるのなら、きっと選んだ道は間違ってはいなかったのだろう。
「……オレ、やっぱ先、帰るっす」
ここは自分一人に任せた方がいいと判断したようだ。
「最後に一つだけ言わせてくれ。オレらはおまえの敵じゃねぇ。味方になれっかは、おまえ次第だけどな。伸ばされた手をつかむ準備は、とっくにできてるからさ。いつでも好きなだけ、頼ってこい!」
枕で己をガードしたまま、ジェイがドヤ顔で言い募る。
「じゃーな!」
そのまま逃げ出すように飛び出したジェイを呑み込み、ドアが閉まった。
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