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微睡み(士郎side)
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サワサワと木の葉が風に揺らぎ、甘い緑の香りが漂ってくる。
車椅子も提案したが、案の定、ふざけんなの一言で却下された。
朝霧に濡れた芝を踏みしめながら、煌牙がゆっくりと歩く。
必死に殺された息遣いの荒さが、本当は歩くのもキツいのだと暗に教えていた。
やがて大木の根の狭間に腰を下ろすと、疲れたように目を閉じて、がっしりとした幹に背もたれた。
木漏れ日がこほれ落ちる頬を、早朝のやわらかな風がやさしく撫でていく。
伸ばされた脚の先で、小鳥が元気よく餌をついばんでいた。
時折開かれる煌牙の瞳は、怖いくらい深く澄んでいた。
命の極を見つめる瞳。
瞬く間に失われていくものがあるのだと知りながら、逃げずに答えを探そうとする様に、深く胸を打たれた。
今という時がたまらなく貴重で輝かしく、愛しいものに感じられた。
「……何かしたいことはあるか?」
思わず聞いていた。
煌牙がハッ、と浅く笑う。
「同情かよ」
憐れみは確かに、蔑みと同種の感情なのかもしれない。
だが心を近く寄せ、相手の苦しみに少しでも寄り添おうとする感情を、必ずしも悪だとは思わない。
とはいえ、憐れむという感情の中には、自分の安定は保証されているズルさが同居していることもまた事実で。
どうしたら近づける?
どうしたら、隠された願いに届くのだろう?
とりあえず煌牙の横に並んで座り、目線を同じにしてみることにした。
退けとは言われなかった。
サワサワ……。
チュンチュン、チュチュチュチュン。
微睡みたくなるほどに世界は平和で、ふわ……っと欠伸をすると、つられたように、煌牙も大口を開けて欠伸した。
思わず微笑むと、睨まれた。
「……どっかの盛りのついた猿が部屋に紛れ込んだせいで、あんま寝れてねーんだよ」
「……っ」
言葉に詰まると、小さく笑われた。
サワサワ……。
チュンチュン。
不思議と沈黙が気詰まりではなかった。
昇りかけの太陽の温もりに溶かされるように、煌牙のまぶたが落ちていく。
やがて、浅い寝息が聞こえてきた。
ジャケットを脱いで、かけてやった。
ファーストに護られている安心感で、自分もまた眠くなってきた。
「……すまない。少しだけ、眠っていいか」
問えば、ファーストが黙ってうなずき返す。
少し前までなら敵味方の区別のつかないファーストやセカンドの前で眠るなどありえなかったが、今では同士の空気感が出来上がっていた。
微睡みの中、一昨日の夜のやり取りが蘇る。
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