アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
届かない想い(士郎side)
-
煌牙が役員棟に泊まるようになってから数日後、ファーストから至急来てくれとの連絡が入った。
主不在の煌牙の部屋に駆けつけてみれば、ベッドに縛りつけられ、すっかり憔悴したサードと、同じく疲れ切ったファーストとセカンドの姿があった。
「……どうした?」
「どーもこーもねーよ。もう、オレらの手には負えねーわ」
ファーストが片手で頭を抱え、天を仰ぐ。
「目ぇ離せば死のうとしやがるし、何も食いやがらねぇ。口を開きゃ、坊に会わせろの一点張りだ。ったく、できねーっつーの!」
坊という単語に反応したサードが、ビクッと目を見開いた。
「坊……っ!?」
両手両足を縛られたまま、一時バタついたが、すぐに力尽きたように、ぐったりしてしまう。
「あんなんの、何がそんなにいいんだか」
「……坊を悪く言うな……っ」
驚いた。
こんなところに、こんなにも煌牙を想う人間がいたとは。
「君は煌牙のことが好きなんだな」
「好きだなんて、坊が穢れる……。ただ、遠くから憧れてるだけだ……」
想いを絞り出すかのような、かすれ切った声。
瞳の奥深い場所に、見る者をたじろがせるほどの熱量を感じた。
サードにとって煌牙はすべてなのだと、痛いほどに伝わってくる。
「我慢……できなかった……。触れたら、ダメだったのに……っ」
憎しみをぶつけられた瞬間が蘇ったのか、再び泣き叫び、最後は疲れ果てたように意識を手放した。
もはや、錯乱状態に近い。
煌牙に会わせてやりたいのは山々だったが、煌牙の怒りようも半端ではない。
特に今は、手術前の大事な時期だ。
下手に刺激して心臓に負担をかけるのは厳禁だった。
「探りを入れてみるから、少し時間をくれないか。それまでは眠剤と栄養剤の点滴で時間を稼ごう」
点滴だけはルイが置き土産のように刺し方を教えて行ってくれたお陰で、密かにルートを取れるまでに上達していた。
それからは日に一度は顔を出し、点滴の確認をしがてら、煌牙の様子を伝えた。
毎回、煌牙が元気にしていることがわかると、泣きそうな顔をして、サードは祈るように目を閉じた。
安定剤の作用もあるのだろうが、当初よりはだいぶ落ち着いたと、ファーストやセカンドにはしきりに感謝された。
仲間意識があるようには見えない。
なぜ壊れたサードを組織に送り返さないのかと問えば、サードは組織のボス、つまりは煌牙の父親のお気に入りらしく、とてもこんな姿は見せられないという。
万が一にもサードに何かあれば、怒りの矛先は、彼らの家族にまで及ぶのだと。
事態は思いの外、複雑だった。
何とか煌牙にサードの想いを届けることはできないだろうか?
たった一つの恋のために、己の持ちうるすべてを賭けた。
自分になど見向きもしない煌牙の後を、ただひたすらに追いかけて。
行き着く先が、たとえ永遠の別れでも。
その時は共に逝くのだとふわりと笑った、悲しくなるほど透明な笑顔が、まぶたの裏側に焼きついて離れない。
想いは叶わなくとも、せめて届けることだけでもしてやりたい……。
運命は残酷だが、きっとまだ間に合うと、信じたかった。
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
99 / 297