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夢(煌牙side)
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夢を見ていた。
昔から、夢は夢だとはっきりとわかる方だ。
そもそもこんな明るく眩しい世界には、久しく触れてない。
昔は自分にもあったのだ。
大切で温かい、守るべきものが。
……あれは5歳の誕生日を数日後に控えた頃だった。
あの頃はよかった。
まだ子供だからと、無邪気に笑うことを許されていた。
自宅の庭にある池で、組の下の者に見守られ、もとい見張られながら遊んでいた時だった。
ひょこ、っと、愛らしい女の子が現れた。
天使かと思うくらいかわいくて、一瞬にして目が釘付けになる。
先日、刑務所から戻ってきたばかりの幹部候補の子供だと、紹介された。
駆け寄ると、おびえて木の陰に隠れてしまう。
「逃げるなっ」
仲良くなりたくて言ったのに、ますますおびえる少女に、困惑した。
尖った言葉以外、知らなかった。
命令すれば、父以外の誰もが言うことをきいた。
『ほら、坊に挨拶しな』
少女を捕まえて、幹部候補の男が無理やり自分の前に連れてきた。
自分と同じ生き物だとは思えないほど、白い肌。
黒目がちな大きな目は綺麗なアーモンド形で、長いまつげのせいか、煙るような儚げな眼差しをしていた。
長めのショートヘアの毛先が、ゆるく細い首にかかり、おびえる姿は、まるで雪の中で震えるうさぎのようだ。
「おまえ、名前は?」
「……ゆき…や」
「ゆきや?」
ゆき……雪?
ピッタリだ。
「決めた! おまえと遊ぶ!」
少女の手を取ると、抵抗されたが、離さなかった。
ギュッと握ると、恐る恐る、握り返してくる。
伏し目がちな瞳に、自分を見つめさせたくて。
それからは毎日、ゆきやを連れて、広い敷地内を駆け巡った。
誰にも教えたことのない、とっておきの場所に連れていったり、池で水浴びして遊んだり。
木登りや虫取り、何でもやった。
意外にも、ゆきやは根性があった。
頼りないし、すぐに泣くが、何度でも繰り返し立ち上がる。
できなくても、けしてあきらめない。
瞳の奥に潜む静かな炎を、綺麗だと思った。
この時間が永遠に続けばいいと願うほど、幸せな毎日だった。
それなのに、ある日突然、世界は光を失った。
「おまえももう五歳になる。いいかげん、大人になれ」
普段、滅多に顔を合わせることのない父が、ゆきやの手を引いた。
「……誰のガキだ?」
氷のように冷たい視線に、下っ端達がいっせいにすくみ上る。
「……さんです」
「呼べ」
そのまま、父はゆきやを連れて背を向けた。
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