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守りたい(士郎side)
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「少しいいか?」
医療モジュールから出てきたルイを捕まえた。
「オペの日程なら、もう少し待ってくれ。今、取り寄せてるものがある。それが手に入り次第になるから、あと数日ってところか」
「そうか」
「どうした?」
聞かれて、迷った。
勘違いなら、これほど恥ずかしいことはない。
「虎に、何かされたか?」
ルイが背中の中ほどまであるブロンドの髪をくくり直しながら、聞いてくる。
「……!!」
「やさしさに不慣れなんだろ。複雑かもしれないが、甘えさせてやれ」
それは別にかまわなかった。
慕ってくれるのは嬉しいし、甘えられるのも年の離れた弟や克己のお陰で、慣れてもいた。
だが、煌牙のあれは、単なる親愛の情を超えている気がするのは、自分だけだろうか。
「惚れてやれとまでは言わない。だが、生きる希望だけは奪わないでやれ」
至極難しいことを、ルイが言った。
「絶対死なねーって、おかしな気を吐くヤツの中には、どんな地獄からでも平然と舞い戻ってくるヤツがいる。かと思えば、もういいってあきらめた瞬間、助かるはずの命が、いともあっさり指の隙間をすり抜けていったりな」
「オレには……」
荷が重すぎると言いかけて、口をつぐんだ。
ルイはここに来てから、寝る間も惜しんで医療モジュールにこもり、空いている時間もネットの文献を読み漁っていた。
できることをすべてやり尽くそうとする姿勢には、頭が下がるばかりだ。
自分だけが煌牙の気持ちから逃げるわけにもいかないだろう。
もしかしたら自分が、煌牙が最期の瞬間に想い描く相手になるかもしれないのだ。
重い枷のような重責がのしかかる。
何をしてやれる?
答えが見えない。
偽りの気持ちをやったところで、鋭い煌牙は一瞬にして見抜くだろう。
結局、そばにいることしかできないのか。
無力感に打ち込めされながら部屋に戻ると、ベットでうなされている煌牙がいた。
慌てて、遠隔で波形を拾うモニターを見つめたが、アラームが鳴る様子はない。
ホッとして、椅子に腰を下ろした。
「ゆきや……」
聞き取れないほど小さな声で、煌牙がつぶやく。
……ゆきや?
眉間に寄せられた深いしわ。
無意識に伸ばされた指先
大切な相手だと、一目でわかった。
不意に燃えるような想いが、こみ上げてくる。
何がなんでも、探し出してやる。
背を向けて、部屋を出た。
先に撮ったアキラの映像の編集で忙しい翡翠を捕まえて、頼み込んだが、即座に難しい顔をされた。
「あいつは、普通の家庭の子供じゃない」
おそらくは日本有数の勢力を誇る、裏の世界の住人だ。
「いたずらに手を伸ばして痕跡でも残せば、この学園そのものも、タダでは済まないだろうね」
言っていることはもっともだ。
自分以外にも被害が及ぶ状況で、無理強いなどできるはずもなく。
「おまえの判断に任せる。無理だと思うのなら、この話は忘れてくれ」
翡翠の透き通るほどに済んだ翠の瞳を見つめ、言った。
しばし見つめ合った後、翡翠が深く吐息した。
「……少し、考えさせてほしい」
頷いて、背を向けた。
無力感を噛み締める。
何が、何でもしてやる、だ。
所しょせんは他人に頼ることしかできないくせに。
守りたい者を守れるくらい強くなりたいと、苦い思いを噛み締めながら、煌牙の眠る部屋へと急いだ。
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