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謝罪(アキラside)
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「は……!? 何だ、あれ……。ドルフのヤツ、マジで抜けるつもりかよ?」
カレンが目を白黒させた。
行かせていいのかよ、とハヤトも追う姿勢を見せる。
「行かせてやれ」
「けど……」
おまえはやさしいな、とハヤトの黒髪を撫でた。
「あんなヤツ、どーだっていいだろ」
片やカレンは清々すると、やけにご機嫌だ。
「デカいヤローがいなくなると、部屋が広く感じられるよなぁ。たかが何年か早く生まれたくらいで、いつも威張りくさりやがって、マジでヤなやろーだったぜ!」
ははっ、と張り上げた声が、妙に虚しく響く。
どんなに性格に難があっても、物心ついた時から共に狭い世界を生き抜いてきたのだ。
どうしたって情は移る。
自身、自分でも驚くほどの寂しさを感じていた。
「また、あえるよ」
リトが未来を予言するように、ニコッと笑った。
「……そうだな」
死んだわけではないのだ。
生きて元気でいてくれたら、それでいい。
また会えた、その時は。
今までとは別の関係を築けるといい。
そう思った。
「……なぁ、アキラ」
ハヤトがためらいがちに、聞いてきた。
「外で何かあった? リューとかいうヤツに……その、何か……されたのか?」
されたというよりは、してもらったと言った方が正しいのだが。
三人を促して、ソファに座った。
両の指を組んで、何から話したものかと迷う。
視線を上げれば、真っ直ぐな三対の瞳がじっと自分を見つめていた。
早く弟を助けなければと急くあまり、置き去りにしてきた多くの想いがあった。
龍之介に感情を揺さぶられたことで、目が覚めた。
大事にしてきたようで、自分はこの子供達を、結局は道具のように利用してきただけではなかったか。
本人の意志がどうあれ、結果として望まぬ相手と寝ることを強いてきた。
それなのに、誰一人文句すら言わずに、ついてきてくれた。
自分を長い間、包み続けてくれた深い愛情に、胸が震えた。
「なんかよ、アキラがいつにも増して、キラキラ見えんだけど!?」
カレンがやべぇ、と口元を押さえながら、頬を染める。
「キモ!」
「んだとっ!?」
カレンとハヤトがつかみ合いのケンカを始める横で、リトがコクコクと愛らしくうなずいた。
「アキラ、きれーっ。ねー、だっこ!」
苦笑して、子供のように軽い身体を抱き上げた。
リトが嬉しそうに、ニコッと笑う。
「おかえりーっ」
陽だまりのような笑顔に全員が癒され、自然、カレンとハヤトの争いも止まる。
「……ただいま」
よしよしと頭を撫でてやると、リトが目をぱちくりさせた。
「アキラ、かなしい? うれしい? あれ? どっち……?」
年齢的にはハヤトとそう変わらないリトだが、その仕草も表情も、ひどく幼い。
娼館内での秘められた出産のため、難産のまま放置されたせいで、脳に障害が残った。
救いなのは、リト自身が少しも自分を不幸だとは思っていないことだ。
高度な思考能力は持たない反面、人の心の動きには人一倍聡い。
やさしく大らかで、朗らかな愛らしさを持つ子供に育ってくれた。
この水と油のようなチームが今日まで崩壊せずに済んだのも、リトのお陰だと感謝せずにはいられない。
「悲しいか、嬉しいか……。どっちだろうな」
悲しいかと言われれば悲しいし、嬉しいと言われれば、そんな気もした。
たった一晩の間に、あまりにたくさんのことがあり過ぎた。
それでも、龍之介の恋人を演じている間、自分は確かに幸せだった。
生まれてきてよかったと、キラキラした感情の渦に包まれ、もう充分だと思えるほどに深く愛された。
「カレン、ハヤト」
「「な、なんだよ?」」
「隠密部隊は、今をもって解散しようと思う」
「「は……!?」」
「身体を売るのは、オレだけでいい。ジュンを……弟を盾に、今まで甘え過ぎた。本当に、すまなかった」
「……っ、ざけんな……っ!」
「ありえねーからっ!」
こぞってつかみかかられ、揺さぶられた。
「甘えろよ!? つーか、好きでやってんのに、その言い方、かえって傷つくだろーが!」
「だいたい、無理やり抱かせてんのは、オレらの方だろ!?」
それは違う。
向けられる純粋な好意を利用した。
思わせぶりに振る舞った。
競争心を煽った。
ズタズタに傷つけられた幼い心と身体に快感を植えつけ、自分に堕ちてくるよう仕向けた罪は、重い……。
「客がごねたら、すべてオレに回せ」
「そうやって、体よくオレらを遠ざける気かよ!?」
半狂乱になるカレンに、苦笑した。
「誰もそんなことは言ってない。もう、褒美のためにと、望まない相手と寝なくていいし、順番がどうのと考える必要もない」
「それって……」
「互いに無理のない範囲で触れ合う関係は、変わらないってことだ」
「「え……っ!? マジで!?」」
ひゃっほーっ、とカレンがガッツポーズした。
ハヤトも小さく拳を握っている。
「なら、今すぐヤろーぜ!」
意気込むカレンの後頭部にハヤトの鉄拳が落ちた。
「んとに、下品だな!」
「はぁ!? なら、てめーはお上品に、見学でもしてろよっ」
「ざけんなっ」
こりずに、取っ組み合いのケンカを始めるカレンとハヤトに、
「オレもーっ」
リトが仲間に入りたそうに、手足をバタつかせた。
降ろしてやると、一目散に駆けていく。
カレンとハヤトがリトを愛しげに抱きしめて、くすぐり倒している。
平和な光景に、目を細めた。
いつの日かここにいる三人にも、真に愛する相手ができるのだろう。
自分のもとから旅立っていくその日までは、できる限りの時間を共に過ごそうと決めた。
願わくば、この輪の中に、一日も早く弟のジュンの姿が加わるようにと、切に願った。
そんな自分の想いが伝染したかのように、みなそろって目を閉じると、しばし手を取り合い、静かにジュンの無事を祈ったのだった。
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