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戦う理由(士郎side)
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扇型のオペレーションルームの前方に座り、作業を続ける翡翠を、腕を組み、背後の壁に背もたれながら、じっと見守っていた。
同席するのはかまわないけど、視界には入らないで欲しい。
ミッションが始まったら、無駄な声かけも控えて欲しい。
あらかじめ出された同席の条件には、もちろん黙って頷いた。
幸い、沈黙は得意な方だ。
絶対に騒ぐからと、ジェイは端から締め出しを食っている。
現在、翡翠の前には、カスタマイズされたキーボードが所狭しと3台も用意され、先ほどから細かな位置確認をしたり、試し打ちをしたりと、忙しい。
ようやくセッティング自体に納得がいったかと思えば、今度は全身のストレッチと念入りな指運動をし始めた。
まるで、試合前の一流選手の準備段階を見ているようで、興味深い。
見つめる先で、翡翠がこちらを振り返る。
「何が起こってるのかわからなくてイライラすると思うけど、とにかく黙って見てて欲しい」
翠の瞳の奥に、炎のような激しい闘志が揺らめいた。
こんな時にかける言葉など、一つしか知らない。
「思いのままに、戦ってこい」
どんな結果が出ようと、すべての責任は自分が負う。
端からそう決めていた。
「シロさんの下は正直すごく居心地がいい。責任感の塊みたいなリーダーに辞表を書かせないで済むよう、頑張らなきゃね」
自分には過ぎた出来のいい後輩が、シャツの袖をまくり上げながら、綺麗に笑う。
小柄な翡翠が、一際大きく見えた。
凛と伸びた背中が頼もしい。
束の間の沈黙が落ちた。
手元の時計で確認してみれば、龍之介を通してハルトと示し合わせた時刻まで、まだもう少し時間があった。
聞いてみたいことがあったが、さすがに集中力を乱すかと、ためらっていると、
「何か言いたいことがあるなら、さっさと言いなよ」
先回られ、苦笑した。
「いや……、おまえは煌牙に牙を剥かれた張本人だからな。複雑な感情があるんじゃないかと、こんなことを押しつけて済まないと思っていた」
「……は?」
途端に翡翠から、ヒヤリとした冷気が立ち上る。
「……シロさんの目には僕が、そんな器の小さい男として映ってるわけだ? 私情にかられて、瀕死のトラを見殺しにするとか、どんだけ情けないって話だよ」
そうじゃないと反論しかけて、結局は同じことだと気づく。
頼りにしているようで、未だどこか、かつての克己に対する時のような保護すべき対象として接してはいなかったか?
例えば相手が龍之介やルイなら。
端から、こんな心配はしていない。
下に見られれば、誰だって悔しい。
男なら。
仲間とは、あくまで対等でありたいと思うのが当然だろう。
極当たり前の感情を踏みつけにしていた自分を、深く恥じた。
「……すまない」
「いいよ、ホントのことだし。僕は別に、そうやさしくもないし、正直、痛い目に合ってざまあみろって、思わないわけじゃないけど」
でも、と翡翠が言葉を継いだ。
「かつて傷ついた僕を助けるために、何の見返りもなく動いてくれた人たちがいる。その仲間として恥ずかしくない自分でありたい。いつだってそう思ってるんだ」
戦う理由としてはそれで充分だと、翡翠が綺麗に笑う。
「タイムオーバーだ。下がって見てて。部下を信頼するのも、優れたリーダーの資質だよ」
翡翠が身をひるがえし、モニターの前に陣取った。
間髪置かず、オペレーションルーム前面のモニターが作動し、龍之介とハルトの姿が映し出された。
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