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身体が覚えている(士郎side)
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『……よぅ。チビッコのくせに、一丁前に凛々しいツラしてンじゃねェか』
龍之介が翡翠を見て、ニヤリと笑った。
毒のように甘い声にたじろいだものの、翡翠もキッと勇ましく睨み返す。
『ははっ。……威勢のイイのは、好きだぜ?』
モニター越しに龍之介が、流し目をくれた。
濃密な夜の闇にも似た甘く淫らな空気感が、見えない煙のように色濃く室内を満たしていく。
まるで、全身にねっとりと舌をはわされるかのようだ。
身体の芯が疼き、息苦しさを覚え、思わずシャツの首元に手をやった。
龍之介の場合、言葉が単なる言葉として終わらない。
すべてが呆れるほど淫らに響くのだ。
深淵な闇色の瞳に囚われ、毒のように甘い声で乱され、浮遊した時の中で灼熱に焼かれる……。
思わず白昼夢に浸りかけて、ハッとした。
慌てて龍之介をキツく睨み返した。
「いい加減にしろ。外野が集中を乱してどうする?」
『あァ? ……イイカンジに肩の力抜いてやってンだろーが』
はぁ……と深く吐息した。
「……とにかく、黙れ」
額に手をやれば、じっとりと脂汗が滲んでいた。
なまじ狂うほど抱かれた後だけに、欲しくて……どうしたって身体が疼いてしまう。
シャワーを浴びる時に、気づけば全身に散らされた跡を、物欲しげになぞっていた。
この手を思い出して独りで慰めろと笑った、毒のように甘い声が蘇る。
強く頭を振って、声の誘惑を振り払った。
『シロ……へーき……?』
顔を上げれば、スクリーンの向こうのハルトが、気遣わしげにこちらを見つめていた。
「……ああ。こんな時に心配かけてすまなかった。あんたも、元気そうだ」
克己と仲のよいハルトとは、以前から、一風変わった友好関係にあった。
言葉をうまく紡げない、極端に引っ込み思案だが寂しがり屋なハルトと、沈黙をまるで苦にしない、むしろ沈黙を好む自分。
相性は抜群で、縁側で並んで日向ぼっこをする犬と猫のように、同じ空間を無言のまま居心地よく共有できた。
あの頃は互いに、叶う望みのない恋心に苦しんでいたなと、切ない想いが蘇る。
当時、世界はひどく閉ざされていた。
やがて龍之介を挟んだライバル関係になり、今では互いに別の相手を見つけ、新鮮な空気に満ちた道を歩き始めたのだと思うと、感慨深く、ひどく不思議な気分にかられた。
相変わらず言葉はうまく出ないようだが、この後のミッションのためか、前髪をピンで留めたハルトの表情も、まとう空気も、以前よりだいぶ明るくなっていた。
「こちらの勝手な事情でルイを呼びつけて、すまなかったな」
『え……? あ……、うん……。へーき……だよ?』
控えめ目に照れる様子が、愛らしい。
普段は分厚い前髪に隠されたハルトの素顔は、実は翡翠と並び立つほどに美しい。
翡翠より顔の造りがやわらかく、春風のような愛らしさが香る、和み系の美少女もとい、美少年だ。
男ばかりの組織では、さぞやモテるに違いない。
これではルイも苦労するなと苦笑した時だった。
これ見よがしにため息をつかれ、モニターの向こうの龍之介に視線を移した。
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