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死闘(士郎side)
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翡翠とハルトが猛烈なスピードでキーボードを打ち込んでいく。
よく見ると、幾つもの中継ポートを、次々とこじ開けているのがわかった。
詳しくはないが、自身、この件をハルトに依頼するにあたり、少しだけネットで調べて勉強してみた。
要は発信源を特定されず、相手のセキュリティーを破り、ネットワークに侵入。
その上で欲しい情報を奪い取れれば、こちらの勝ち。
逆に、中継地点をたどられ、こちらの正体を突き止められれば、こちらの負け。
中継地点はランダムに、それこそ世界い中に設けられ、中には情報を欲しがりそうな、それらしいダミーを仕込むことも忘れてはいけない。
今回は翡翠が相手のネットワークを撹乱している隙をついて、ハルトが情報を盗む作戦らしかった。
ハルト達を映し出す前面のスクリーンのうち、左側の一部には、ハルトの打ち込んだデータも記されているが、翡翠に負けず劣らず大量のローマ字や記号が記されている。
室内はシン……と静まり返り、緊張感は逆に、刻一刻、膨れ上がっていく。
『これより侵入開始』
「OK」
いよいよかと、拳を握りしめた。
度重なるファイヤーウォール突破の文字が、スクリーンに幾重にも赤く浮かび上がる。
深部の情報にアクセスしようとすればするほど、当然危険度も上がる。
敵地深くに攻め入り、難攻不落の城の迷路に迷い込むようなものだ。
敵に感知されたら最後、無傷での生還は難しくなる。
一瞬たりとも気が抜けない。
退路を確保し、勇敢と無謀のギリギリの地点を見極めながら、果敢に進む。
チッ、と翡翠が舌打ちをした。
「探知された! そっちの状況は!?」
『もう届く。あと5秒待って』
「……っ、わかった」
緊張感が息を止め、ことの推移を見守った。
「限界だ! 退避する!」
『……OK、届いた。後に続く!』
サイレンのような音が鳴り響く。
心理的圧迫感の強い音だ。
キーボードの音が無数に重なり続ける。
スクリーンに、WARNの文字が表示された。
『リュー! 手、貸して』
切迫したハルトの声が響く。
スクリーンの向こうで、龍之介が黙って、ハルトが抱えるスクリーンの内の一つを奪い取った。
やがて、
「危機一髪……!」
翡翠がつぶやきながら、その場に崩れ落ちた。
何がなんだかわからなかったが、危機は無事、脱出したようだ。
「最後、めっちゃ追いかけられて焦った」
『ん……。ネットワークも……すご…かった』
「敵に詳しいヤツがいる。一人なら確実に刺されてた」
『でも、君……すごい…よ?』
「ハルトさんには敵わない。勉強になりました」
『……おい、チビッコ。オレへの感謝はねェのかよ?』
「最後少し手伝ったくらいで、大きな顔しないでくれる?」
使えるなら最初からやれよと、翡翠がツンと明後日の方を向く。
「今回は時間がなかった。時間さえあれば、ずっと安全に事を運べたし、あんたの手を借りるまでもなかった」
『……テメェ、つくづく生意気だなァ、オイ』
もう話してもいいだろうと立ち上がり、翡翠の肩に手を置いた。
「疲れたろ。よくやってくれた」
「ホントにね。手に入れた情報は、ハルトさんが持ってる。僕は少し、休ませてもらうよ」
顔色がよくなかった。
時間は短かったが、持ちうるすべてを出し尽くして戦ったのだとわかった。
感謝と敬意を込めて、立ち去る翡翠を見送ると、改めてハルトと龍之介に向き直った。
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